本編補足、第3夜と第4夜の間の話です。




美神さんが参加する為、魔法陣を使用して『匣』の内部に足を踏み入れる。

相変わらず広い。

文字通り別空間らしいから当たり前だが無意味なくらい広い空間。

その広さが当然とばかりに棚が連なっているのを見ると、改めてココの広さを実感する。

周りを見渡すと確かにあちこち棚が崩れているようだ。この広さでは片付けるのも大変だろう。


「まさかとは思うけどココ全部じゃないでしょうね?」

「そこまでは期待しておらぬ。今回手伝って貰うのは……ふぁぅ……失礼」


美神さんの質問と言う名の確認に夜が答えようとして、口元に手を当てて欠伸あくびを一つ。


「大丈夫か? まだ眠いのなら無理は……」


目をこしこし擦り眠そうな夜に俺は声を掛ける。

あの時、夜は随分無理をしたみたいだから未だ完全に回復していないのだろう。


「確かに眠いが……」

「少し休んだ方がいいんじゃないか?」

「うむ。さすがにネット三昧で貫徹2日目だからな。そろそろ眠らねば……」


ズルっ


「ネットかよ? てゆうか、徹夜なんかするな、キチンと寝ろ!」


思わず突っ込んだ俺だが、思ったより元気そうでホッとした。




GS横島

 番外7 夜の匣 〜お宝発見!? 中編〜




「先程渡した『ふだ』で在庫確認が出来る。品物に当てればよいのだ」


夜が皆に御守りサイズの札と、厚み1ミリ程のB5サイズの奇妙なプレートを配り終えて説明し始める。

ためしに近くの品物に当ててみるとピッという音がして、プレートに文字が表示される。


「バーコードリーダー見たいなモンか」

「うむ、コンビニ形式だ。正しくチェックするごとにポイントが貯まるようになっておるのでな」

「ポイント?」

「うむ、お手伝いポイントだ。貯まったポイントと引き換えにアイテムを交換してやろう」


美神さんの目がキラリと光った気がした。


「プレートには区画ごとの案内も表示される。先程決めた通りの部署で作業すれば、混乱する事はなかろう」

「私と……ルシオラが一緒……」

「えーと、この薬品、書物、封印物って所ね」


優華は薬品関係に詳しいし、ルシオラも今までの優華の手伝いで知識はあるから丁度いいな。


「拙者とひのめ殿と女狐で……」

「私とひのめと馬鹿犬で、刀剣武器ね」

「犬ではござらん!!」

「じゃあ、馬鹿なのは確かね」

「おのれぇーっ! 拙者を愚弄すると……」


いつものように言い争いを始めるシロタマ。


「二人とも止めなよ。でないと……」


ひのめちゃんが止めようとシロタマの口喧嘩を止めようとする。

いつもなら、ひのめちゃんも止めないのだろうが、今回は場所が場所だ。


「帰るか?」


ひのめちゃんの言葉を継いだ俺の一言に、シロタマは仲良く首を振って答えた。

まぁ、刀剣の類はシロが詳しそうだし、ひのめちゃんやタマモも結構知ってそうだ。


「で、私とおキヌちゃんとで危険物Sクラスの……」

「Aクラスの武器、呪符、道具一般の筈だが……?」


夜の言葉に美神さんが小さく舌打ちしたのが聞えた。やっぱり危険だな……このひとは。

ま、ある意味、幅広い知識が要りそうな部署ではあるから美神さん向きなんだろうけど。


「で、俺が厄珍の手伝いだな」


ハッキリ言って俺にはオカルト道具はサッパリ判らん……ので厄珍堂へ荷物を運ぶ手伝いだ。

まともに霊気のコントロールが出来ない俺に道具は使えん。

つまり使わん知識は覚えていないという事。

よって力仕事になる訳だ。ま、これならオカルトとは関係無いし……変な事も起こらんだろうしな。


「それにこの方法だと誰がどれくらい手伝ってくれたかが判るのでな。報酬も渡しやすいと言うものよ。それに……」


夜は意味有りげに笑って美神さんに顔を向ける。


「『ぎぶあんどていく』なのだろう、美神殿?」

「え……えぇっ!?」


言った言葉に反応して、美神さんが夜を見てから俺を凄い目で睨む。

たしか、その言葉は美神さんのセリフだ。夜はご丁寧に発音まで同じ様に真似ている。

明らかに美神さんをからかっている夜の言動に、俺は命の危険を感じて慌てて美神さんに弁解する。


「俺は何も……」

「主殿は何も言ってはおらぬよ。主殿から複写した記憶の中には色々な知識が有ったのでな」


俺の声を遮り、夜は美神さんに答えると華のように笑った。


「労働には報酬が与えられるべきだからな。棚卸中に目ぼしい物が有ったのならチェックしておくがいい」


美神さんの目がキラッと光った気がした。


「もちろん、勝手に持ち出すのは厳禁だ。セキュリティが作動するぞ。

おぬし等に手伝ってもらう場所はセキュリティランクAだからな」


「『せきゅりてぃらんくえー』でござるか?」


シロがよく判らないといった感じで尋ねる。もちろん俺も良く判らん。


「うむ、つまり『簡単に死ねるレベル』ということだ。もちろん其処にある品物も危険な物ということだがな」


つまり、下手な事はするなという事か。


「品物自体に危険は無いの?」


夜の言葉にタマモが尋ねる。もっともな質問だな。


「勝手に持ち出したり、意図的に破壊活動を起こさねば問題は無い。その為の札でありプレートだ」


なるほど。許可書も兼ねているのか。


「でも万が一ってこともあるんでしょう?」


ルシオラが念を押すように尋ねる。当然かな……危険は有る訳だし。


「その危険も含めて、労働の対価にあわせて報酬は支払おう」


夜のセリフに、ちらりと一瞬俺の方をみる美神さんの目がギラリと光った様な気がした。


「先に言っておくが主殿の報酬は主殿のモノだ。だから主殿の分を……と言うのは駄目だぞ。

さぼらず真面目に手伝ってくれれば労働分の報酬は用意する。では宜しく頼むぞ。主殿は後から付いて来てくれ」


そう言い残すと夜はポテポテと向うの方へ歩いていった。

残されたのは口を開きかけて固まった美神さんと俺達。


「たぶん美神さんがキレて俺に八つ当ってからが仕事開始だな」


他人事のように呟いた俺の視界に美神さんの拳が映った。




―――暗転―――




今回は殴打音が聞えなかった。多分音速を超えた拳が一撃で俺の意識を刈り取ったのだろう。


「よく死なないよな……俺」


いつものように気が付けば……ルシオラの膝枕?


「あら、早かったのね、気が付くの」


微笑んで見つめてくるルシオラに俺は少し照れながら尋ねる。


「どれくらい寝てた?」

「5分ぐらいかな……一応聞くけど大丈夫?」

「……大丈夫……と言っていいんだろうか?」


質問に質問で返してはいけません……が、ホントに聞きたい。俺って丈夫だよなぁ。


今は長期出張中のナルニアに居る母親に身体の頑健さを感謝しつつ身体を起こす。

ルシオラの膝枕は非常に魅力的だが、あまり寝ていると美神さんが怖い……他の皆の視線も何か痛いし。


「まだ、寝ててもいいのに……」


ルシオラが俺の事を心配して声を掛けてくれる。が、無音の圧力がそろそろ……。


「皆、働いてるのに俺だけサボってるみたいだからな。これ以上、睨まれない内に仕事にむかうよ」


そういって立ち上がる俺にルシオラが溜め息をつく。脚、痺れたのかな?


そんな事を考えながら歩いていた俺に品物を箱に詰め、仕分けしていた厄珍が声をかけてきた。


「坊主にはコレを運んで欲しいアル」


厄珍が指したのは……なんというかガラクタの山に見えなくも無い。

厄珍に指示を出しながら品物を調べていた夜が振り向いて説明してくれる。


「ココにはオカルトアイテムの修復や、浄化機能があってな、対価と引き換えに外に出荷しているのだ」

「対価って?」

「これアルよ」


そういって厄珍が取り出したのは……精霊石!? しかもかなり大きめの!!


「あとは……今回は現金が要るんだったアルね?」


そう言って厄珍が夜に渡したものは――札束。

えーと、確か1束100万だったよな……3束ですか!?


「なにを驚いてるアルか? 精霊石に比べればこの程度の現金、僅かな額アルよ?」

「手持ちに現金が必要だったのでな。今回用意してもらったのだが?」


夜達の言葉に、呆然と……自分の時給を考えそうになった俺は見なかった事にした。




俺は厄珍の指示の元、夜から許可が出たという品物を仕分けしては箱に詰め外まで運ぶ。

ソレを延々と繰り返した。

――――3時間経過――――


そろそろ昼か……皆に声をかけるか。と思ったらシロが呼びに来た。


―――お昼御飯&休憩―――


なんかピクニック気分だよな。マット広げて弁当囲んで皆で談笑なんて……


―――更に2時間経過―――


しかし、無茶苦茶有るな……かなり外に運んだのに、ちっとも減らんぞ。


―――おやつ&一休み―――


ちっとも片付いたように思えん。が、ひとまずオヤツ休憩だな。

俺は既に何往復目かの作業を終え、あたりを見回す。


「あとは……この一山だけか」


後ろにある箱詰めの品と、いかにも嵩張りそうなオブジェ。刀剣の類に……木の机?。


「へぇー。珍しいな木製の机かぁ」


埃を被ったその机は一昔前の―――ここにある多くの品に比べれば―――普通の机だった。

全てが木で作られた勉強机、今の鉄を使っている机に比べれば無骨に見えるが、ソレが逆に新鮮に見えた。


「それにしても埃だらけだな……ついでに磨いとくか」


近くに置いてあったタオルを軽く濡らすと埃を拭き取り綺麗に磨いてやる。

表面に何か書かれた紙が張り付いていたので綺麗に剥がして棄てる。

磨いてみると、古そうな外見とは裏腹に特に壊れてはいないように見えた。


「へぇー案外、丈夫なもんだな。それとも修理済みか。このままでも使えるんじゃないのか?」


俺は近くの木箱を椅子代わりに磨いた机で、夜から貰ったオヤツの饅頭を食べ始める。


「もう少しだな。今のところ問題は無いみたいだし……向うが騒がしい気がするけど気の所為だよな」


ずずっと茶をすすり、嫌な予感を無理に押さえ込もうとする。

が、厄珍の慌てたような声が俺の努力を無に帰した。


「大変アルよ!! 向うで騒ぎが起ってるアル。急いでコレだけでも外に出すアルよ!!」


いかにも『割れ物です』と言わんばかりの品を指して厄珍が悲鳴をあげる。

タイミングの悪い事に、次に運ぶつもりで通路上に並べられていたのだ。

俺は騒ぎが起った方向が気になったが考えている時間は無かった。


だって何かが突っ込んできたのだから。


「突進ですか!?」


素晴らしい勢いで突っ込んで来た……女性(?)は俺達に気付いて止まろうとしたらしい。

が、人も急には止まれない。慣性の法則に従い積んでいた荷物に女性は突撃を敢行する。

何かが割れる音と激突音、そして厄珍の悲鳴が響いた。

辛うじて躱した俺だが、ふと顔を上げると宙に待った何かの液体の入った瓶が俺目掛けて落下してくる。


「それは危険アルよっ!!」

「えぇっ!?」


厄珍の叫びに驚愕で返すが、かわした体勢が悪く避けきれない。


「当るっ!?」


最悪の可能性が俺の目の前に有った――。




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