「それは危険アルよっ!!」

「えぇっ!?」


厄珍の叫びに驚愕で返すが、かわした体勢が悪く避けきれない。


「当るっ!?」


最悪の可能性に身体が強張る。


がしゃーん


「………………?」


硝子の割れる音が響くが……あれ?


ぽたぽたぽた……


「大丈夫・ですか?」


水の滴るような音と誰かの声に顔を上げるとソコに居たのは――。


「僕、横島十夜といいますっ!!……で、貴女は誰? 来客は聞いてないけど?」

「マリア・と言います」


金髪美人のお姉さん(?)に、おもわず自己紹介をして『はこ』の来客なのか尋ねると、その女性はマリアと名乗った。

俺を心配そうに見つめてくるマリアを見て、俺は彼女から滴る液体の事を思い出す。


「俺は平気だけど……そっちこそ大丈夫か?」


俺の言葉にゆっくりと頷くマリア。

大丈夫そうだ。俺はホッとして厄珍に顔を向けた。


「なぁーんだ。厄珍、脅かすなよ。てっきり劇薬とか猛毒とかだと……」


俺の声は厄珍の白を通り越して土気色に変った顔色に止められる。


「……劇薬? 毒? なのか!?」

「惚れ薬アル……」

全人類の夢と希望!? そんな美味しい物がホントに有ったのかぁーっ!?」


素晴らしい薬の存在に俺は喜びの声をあげる。当然だろう? モテない男にとって夢そのものなのだから。


「ただし効き過ぎて廃棄するか成分調整予定だったものアルね……」

「えっ!?」


ぼそりと呟かれた厄珍言葉に俺の動きが止まる。


「惚れた相手の背骨が折れるまで抱き締めて、窒息するまでキスするアルよ……」

「……ま、まさか」


そういえば、さっきのマリアの俺を見る目が少し……気のせいだよね? ね?


かちゃり

びくっ


背後の物音に振り向くと其処には……シロが居た。


「シ、シロか、吃驚びっくりさせ……」


俺の声が途中で止まる。

そこに立つシロは、いつものシロのように見えた。

手に抜き身の日本刀が握られていなければ。


「せんせい……拙者、拙者……」

「シロ?」


切なそうなシロの様子に俺の脳裏に『マサカ!?』と言う想いがよぎる。

だが瓶が割れた時、シロは傍に居なかった筈だ。

よく見てもシロには惚れ薬がかかった様子は無い。

ただし、いかにも妖刀ですって雰囲気を纏わり付かせた日本刀からポタポタと滴っている以外は。


「マサカ……!?」

「先生を、もっと感じたいでござる……このやいばで……っ!!」

のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーー!!


俺は思わずムンクの叫びのようなポーズで叫ぶ。


「アレはシメサバ丸アルか!? あの狼娘、妖刀に操られているアルよ!? いや……共感しているかも知れないアルね」

落ち着いて解説してるんじゃねぇーーっ!!


いつの間にか少し離れた所で落ち着いて眺めている厄珍に、襲い来る白刃を避けながら俺は絶叫した。




GS横島

 番外7 夜の匣 〜お宝発見!? 後編前半〜




「……じゃねぇーーっ!! ってアレ?」


気が付くと教室の机で俺は叫んでいた。

周りの皆が俺の方を見ている……ここは?


「大丈夫? いきなり大声出すから吃驚びっくりしちゃった」

「ああ、悪い……えっ……と?」


隣の席の女の子が話し掛けて来たので返事をしようとしたのだが……あれ?


「愛子よ。もぉ、女の子の名前を忘れるなんて減点よ」

「悪い、女子の名前だったら忘れた事無いんだけどなぁ? まだ寝ぼけてんのかな……」


ぼりぼりと頭を掻く俺を見て、集まった周りの視線は俺から外れた。

うぅ……寝ぼけて大声とは。


「ホントに起きてる? 自分の名前言える? 今が何処で何時か判る?」

「横島十夜、高校1年の教室、今は昼休み。幾らなんでも、そこまで寝ぼけちゃいねぇーよ」


真剣な目で俺の顔を覗き込んでくる愛子に苦笑しながら答える。

そっか、夢か。

でも何か忘れているような気がするな……えっと、確認するか。

俺はこの学校に転校してきた転校生で未だ制服は届いていない。なので私服だ……よしOK。

となりに居るのは愛子、転校してから世話になってるクラスメイト、好きな言葉は青春……OKっと。

で……

がらっ


今、扉を開けて入っていた私服っぽい姿の女の人……がマリアって言う――


「先生が来たわよ」

「そう、マリア先生だったよな……やっぱ寝ぼけてんのかな?」


俺は愛子のフォローでマリア先生の事を思い出す。なんか頭がボーッとして……


「あれ? 先生?」


愛子の声に顔を向けると、マリア先生が教壇に向わずにこっちに歩いてくる。俺、何かしたっけ?


「横島君、何かしたの? マリア先生、横島君の方に近づいて来るみたいよ」

「覚えは……ない筈……だけど? いや……アレかな……」


思わず色々思い当たるふしが有るような無いような――


「横島……さん……」


俺の前で立ち止まり、俺の名を呟くマリア先生……?


「えっ、『横島さん』って……マリア先生?」


俺の頭に疑問と嫌な予感と違和感が駆け巡る……何か忘れている様な気が……


「愛……してます」

「ええええええええっーーーーーーーーっ!!」×クラスメイト全員−1

「ああっ、生徒と教師の禁断の愛……青春だわーーっ!!」


一人だけ違う感想を叫ぶ愛子……だが、俺は愛子にツッコミを入れる暇は無かった。

俺に向って物凄い勢いでマリア先生が突進してきたのだ。


「のわぁーーー!!」


ばきばきばきばきぼきっ


間一髪で避けた俺が見たものは、俺の代わりにマリア先生に抱き締められた机が粉々に砕け散る姿だった。


「しぬ!? あんなの喰らったら死んでしまうっ!!」

「過激な愛情表現……青春よねーー」


俺の緊迫感に構わず感動している愛子……状況考えろよ!!って、他人事だからか!?

愛子にツッコミを入れたいのを堪えて教室から飛び出す。

幾らなんでもマリア先生を殴る訳にはいかない。ここは逃げるしかない。

慌てて廊下に転がり出た俺と愛子だが、危機が去った訳では無かった。いやむしろ悪化した。


「あれ? 転校生?」


愛子の声に、バネ仕掛けの人形のように立ち上がり数メートル飛び離れる俺。

第六感がアラートを告げ続けていた。


「横島くん?」


不思議そうな愛子の声に俺は答える余裕は無かった。

そこに立つのは、どう見ても中学生ぐらいの私服の少女。

長い銀髪の前髪一房に赤いメッシュが入った美少女。

普段の俺なら間違いなく声を掛けるような……ただし、禍禍しい雰囲気の日本刀を持ってさえ居なければ。


「……シロ?」


知らない筈の少女の名を呟く。

追い詰められた俺の脳裏に何かが浮かぶ、いや思い出す。

そうだ……俺は……!!


「横島……さん……」


教室からマリアが出てきた。


「せんせい……」


シロが頬を染めながら……刀を振りかぶる。


「愛……してます!!」

「愛してるでござるよ!!」

「うわーーーーーーっ!!」


うぅ……美女と美少女からの告白。ホントなら嬉しいはずなのにぃ。


「愛・して・ます。愛・して・ます」

「拙者の愛を受け取って下され!!」

「そんな告白は嫌ぁーーーっ!!」


流石に命と引き換えの告白は辛すぎますよ。


「てゆうか俺は命を賭けないとモテないのか!?」

「ああっ、同じ男の子を好きになってしまった女子生徒と女教師の激闘…………青春だわ!!」


愛子の声を合図にしたかのようにマリアとシロが俺に迫る。

マリアの腕が飛ぶ……て、ロケットパンチ!? シロの斬撃が迫る……窓枠が真っ二つ!?


「ああっ、青春の甘い香り……青春ね! 青春だわ!」

「状況を見て言えよ!! 血の香りが甘いのか? 青春なのか? てゆうか俺の命は無視か?」


ひたすら青春を噛み締めながら俺と並走する愛子に俺はツッコミを入れた。




時は少し遡って騒ぎが起きる前。

皆さん、六道冥子さんがココに居る事を覚えているだろうか?

前回の仕事の分担で名前が挙がらなかったのは忘れられていた……訳ではない。

勝手にうろうろと彷徨って居たのだ。

もちろん『札』は受け取っていたのでセキュリティに引っかかる事はない。

もちろん美神達の無意識に腫れ物を扱うが如き意識があった事は否定はしないが。

そんな彼女が棚の品物を珍しそうに見ていると奇妙なモノを見つけたのだった――。


「あれ〜〜? この人、確か〜〜」


どこかで見たような姿に冥子は記憶を探りながら観察する。

彼女の見つけたのは埃を被った奇妙なオブジェ……というよりも人形だった。

世の高い初老の男。

西洋系だと思われる顔立ちに黒いロングコートを羽織り、

何かに驚いたような姿で固まった姿はコントのワンシーンの再現か、変質者一歩手前の表現か。

何れにしても奇妙に場違いな雰囲気の代物である。

「そ〜〜だわ〜〜確か〜〜ヨ〜〜ロッパの〜〜魔王〜〜ドクター・カオスだわ〜〜。そっくり〜〜」


資料でしか見た事の無い姿に、冥子は嬉しそうに笑うと、もっと良く見ようと人形に近づいて……ふと気が付く。

人形の丁度足元に奇妙な魔法陣のようなモノが描かれている。ドクター・カオスの人形はその中央に立っていた。


「これは〜〜多分〜〜呪縛結界だと思うんだけど〜〜複雑で良く判らないわ〜〜」


じっと魔法陣を眺めていた冥子だが、さすがに迂闊に踏み込むような真似はしない。さすがにプロのGSである。


「あっそ〜〜だ、これを使えば〜〜」


そう言って無くさないように首に架けていた『札』を取り出すとドクター・カオスそっくりの人形に近づける。

前言撤回、プロのGSは迂闊な事はしない筈なのだが、流石は冥子といったところか。


ピッ……ピピピピピピピピピッ


札から電子音のような音が響くと、人形の足元に描かれた魔法陣が明滅し徐々に消えていく。そして……


「ぐ……ごほっごほごほ……げはっごは……はぁはぁ、やっと動けるわい」


身体中の埃に咽ながら人形では無い、呪縛結界に囚われていたドクター・カオスが動き出した。


「え〜〜と〜〜本物ですか〜〜」


冥子がドクター・カオスに声をかける。

驚く素振りを見せない冥子にカオスは興味深げな視線を向ける。

普通は驚く状況に平然と尋ねる冥子にドクター・カオスは内心感心していた。

もちろん、冥子の性格なら些細な事だから気にしていないだけだろう。


「いかにも、わしがヨーロッパの魔王と呼ばれたドクター・カオスだ」

「古代の秘術で不死の身体になったそうですけど〜〜ここ百年ほど行方知れずだった、あの〜〜?」

「なにっ!? 百年も経って居ったのか!!」


冥子の言葉に驚くドクター・カオス。

そんなカオスの様子を気にせず冥子はマイペースで話し掛ける。


「なんでココに居るんですか〜〜」

「ふっふっふっ。それは秘密なのじゃが……研究に必要な物がココに有ると知り入り込んだ……とだけ言わせて貰おうか」


マイペースな冥子に負けず劣らずボケるカオス。もちろん本人はいたって真面目なのだが。


「じゃあ、今まで〜〜?」

「ふっふっふっ。それも秘密なのじゃが……ついうっかり警備呪式に引っかかって今まで囚われていた……とだけ言わせて貰おうか」


自分の失敗までバラすカオスに、聞きたかったことを聞いて満足そうな冥子。


「そ〜〜なんですか……あっ、サインください〜〜」

「よかろう……とコレでいいかの?」

「ありがとうございます〜〜」


どこからともなく取り出され差し出された色紙にサインするカオス。

この二人のマイペースさは同等のようだ。


「しかし百年も経ったのか……おおっ、そうじゃ! お嬢ちゃん、強力な霊能力を持つ人間に心当たりは無いかね」

「え〜〜あります〜〜でも何でですか〜〜?」

「ふっふっふっ。これも秘密なのじゃが……研究の為には強い霊能力者の犠牲協力が必要……とだけ言わせて貰おうか」

「え〜とですね〜〜〜〜」


丁寧に、ココにいる事を教えてあげる冥子。

当然、親友の美神の事だ。ついでにお友達の横島の事も……もちろん悪気は無い。


「なるほど、そいつは運がいい……おっ、そうじゃ!! マリアは……!?」


慌てて何かを探し始めるカオス。冥子はボーと眺めている。


「ここ・です。ドクター・カオス」


傍にあった埃避けのシートの中から声がして金髪の女性が中から出てきた。


「おおっ、マリア!! 無事じゃったか」

「イエス。ドクター・カオス」


マリアだけシートがかけられていたのに微かに不公平を感じながらカオスはマリアの様子を調べる。


「この人は〜〜?」

「こいつはマリアと言ってワシの助手なんじゃが、わしと同じ様に囚われていたようじゃな。

わしらを捕らえていた呪式は、おそらく一種の時間凍結のようなものじゃな……」


冥子の質問にカオスは自らの推論を説明しながら、これからの作戦を考えていた。










やはり、後編が2つになりました(笑)

ドクター・カオスの登場です。いえ、マリアの登場かな。

そして、やはり愛子といえば……ね。

さあ、後は最後のまとめなんですが、どうなるんでしょうね(爆)
















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