「マリア、解ったか?」

「イエス、ドクター・カオス。紅い髪の女性・『美神令子』、赤いバンダナの少年・『横島十夜』を確保・します」


マリアの返答を聞き、満足げに頷くカオス。


「では、頼んだぞ」

「イエス、ドクター・カオス」


冥子に詳しく二人の特徴を聞いたカオスは、マリアに作戦を実行させた。

人の話し声のする方向に走っていくマリアを眺めながら、カオスは満足げな笑みを浮かべる。


「100年も囚われて居ったのは不覚じゃったが、結果よければ全て良し。憑きが回ってきたわい」


そう独りごちると近くに有った箱の上に腰を下ろす。

だが、ドクター・カオスは忘れていた。ココがどういう場所だったかを。


「あ〜〜そこは〜〜」

「なんじゃ?……ぐわぁあーー!?


冥子の声にカオスが疑問を覚えた瞬間、何かがカオスに襲い掛かる。


「セキュリティーが〜〜」


冥子の言葉通り、起動し実体化した獣型の『式』が鋭い牙でカオスに襲い掛かっていた。


「見とらんで助けんかーー!!」

「え〜〜と〜〜」


必死で抵抗するカオスをオロオロしながら冥子が見ている事に、カオスの怒声が飛ぶ。


「なにをしておる!! わしを助けろ!!」

「そ、そんな事〜〜言われても〜〜急には〜〜」

「トロトロしておらんと、さっさとコレを……」

「ふ……ふえ……」


今にも泣き出しそうな冥子に、カオスは舌打ちして冥子を叱咤する。


「泣いたってどうにもならん!! 早く……!!」


もちろんカオスは知らない。冥子を泣かせる事がどういう事になるのかを。


「ふえ〜〜〜〜〜〜っ!!」


そして、カオスは『六道冥子』を知った。


ちゅどーーーん


『六道冥子=暴走』という図式を――。




GS横島

 番外7 夜の匣 〜お宝発見!? 後編 中〜




美神達がおやつ休憩の為、集まっていると、向うから誰かが近づいて来るのが見えた。


「冥子?」


美神は、いつの間にか居なくなっていた冥子かと思ったが、明らかに外見が違う。

首辺りまでの金髪に、黒い皮製のような材質の服装、明らかに別人だ。


「ミス・美神ですか?」

「……そうだけど、アナタは……」


奇妙なアクセントで話し掛けてきた女性に、誰? と美神が聞きかけた瞬間――


ちゅどーーーん


突然の爆発音に皆の視線がそちらに向う。

爆発音に混じって聞えてくる何かの鳴き声。

冥子との付き合いが、ある程度有れば予想できる嫌な予感。

この場で判っていないのはタマモ、シロ、そしてマリアだけだ。


どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど


何かが走ってくるような音が聞え、現れたのは――




馬のような式神、インダラに乗った冥子とその周りに集う式神達の暴走した姿。

そして、その前を独り走る栄光のランナードクター・カオス。

見ようによってはカオスが冥子達を引き連れているように見えなくも無いが、必死の表情がソレを否定していた。


「マ、マリアーっ!!」

「ドクター・カオス!? 大丈夫・ですか?」


カオスの叫びに、マリアが呼んだ名を聞き美神が驚愕に目を見開く。


「えっ!? カオスって、あのドクター・カオス!?」


不死を完成させたと言われるヨーロッパの魔王ドクター・カオスの名は美神も知っていた。

だが直ぐに、その驚きはカオスの背後に迫る冥子の暴走に掻き消されてしまった。


「待って〜〜いま助けてあげるから〜〜」

「わしに構うな!! 向うへ行け!!」


背後から迫る冥子と式神達にカオスは答えたつもりだった……しかし。


「イエス。ドクター・カオス・向うの目標『横島十夜』へ移動・します」

「えっ!?……ち、違う!! マリア、わしを助け……」


再び走って行ったマリアにカオスは呆然としかけて慌てて声を掛ける。

が、既にマリアの姿は無かった。


「マリア〜〜!!」

「待って〜〜〜〜」


カオスの叫びと冥子の声と式神達が遠ざかって行く。

その様子を気にせずに美神達も走り出していた。

先程、マリアと呼ばれた女性が言ったセリフの中に聞き逃せない名があったからだ。


「拙者の脚なら直ぐに追いつく。先に行くでござる。先生は拙者が!!」


そういって人狼の脚力を発揮して加速して行くシロ。

シロの後ろから美神達も横島の元へ走っていった。




シロが前方を走る女性に追いつき止めようとするのを美神達は後方から見ていた。

マリアと呼ばれていた女性がシロの追撃に気を取られ箱の山にぶつかるのを。

マリアが落下してくる物から横島を庇った事を。

シロが近くに有った刀に引寄せられるように近づき手に取った事を。

そして横島が突如、近くに有った机にマリアとシロごと呑み込まれてしまった事を。

その為、今現在、美神達は外からの手出しが出来ないでいた。







「つまり、ココは机の中の空間って事か?」

「そう言う事。私のナカって事よ。名付けるなら愛子空間。青春が満ち溢れる世界よ」


机の中、愛子空間にある学校の廊下を愛子と共に疾走しながら横島は彼女の説明を聞いていた。

彼女曰く、『危険だったから助けてあげた』そうなのだが、ついでに『青春してもらおう』と考えたそうだ。

この辺りが流石は妖怪と言ったところだ。学校の青春のイメージが愛子の生まれた原因らしいし。


「道理で何か変な感じがした訳だ」

「えー!? 青春嫌い?」

「そうじゃなくて……」


近くの教室に転がり込んで一息つきながら考える。

さっきまでの記憶は愛子が学校のキャストとして俺を取り込もうとした所為らしい。

本人に悪気は無いんだろうが、迷惑な事は確かだ。


「学校生活は悪くは無いけど、無理矢理取り込んで学校生活させるってのは間違ってると思うぞ」

「で……でも、私……妖怪だから」


自分は妖怪だから人間の様に学校に通う事は出来ない。

そう言って寂しそうに呟く愛子に微笑みながら、無意識に彼女の頭を撫ぜる。


「心配すんな。外の学校にも妖怪でも入れてくれる所が有るぞ。俺が行ってる六道学園も……」


手短にシロタマが受け入れられた事も含めて説明してやると愛子の顔が期待に輝きだした。


(やっぱり女の子は寂しそうな顔より嬉しそうな顔だよな……)


そんな事を考えていると愛子が小さく呟く。


「もう、子供扱いしないでよね……」


愛子の言葉に、彼女を撫でていた手に気付いた。


「あっいけね、ついシロタマの時の癖で……」


謝って、ふと顔を赤くした愛子と見詰め合ってしまう。


「こーいうのも青春の1ページよね……」


愛子が小さく呟く声が俺の心を妙に騒がす。なんかドキドキして……
















ヒュン……ざしゅ!!


ばしゅっ…………ズガガガガン!!


襲い掛かってきた白刃と飛んできたに、俺の心臓の鼓動は全開、ドキドキMAXって感じだ。


「あらっ!? もう追いつかれたみたいね。コレも青春かしら?」

「知るかぁーーっ!! ていうかココ、お前の中だろ!? なんで追いつかれるんだ!?」


都合よく見つからないようにするとか出来るんじゃないのか?

と言う俺の眼差しに愛子は困ったような不思議そうな表情で一言。


「青春ぱわー?」

「………………」


愛子との会話に妙な脱力感を感じつつ目の前に迫った危機に目を凝らす。

俺の背後は壁、これ以上は下がれない。

右斜め前には妖刀を構えたシロ。

その瞳は熱っぽく潤み、俺に熱い視線を向けてくる。

左斜め前には腕を構えたマリア。

無表情な顔の中で瞳だけが俺に対する感情で光っている。

俺の隣……と思ったら、いつの間にか向うで観戦モードの愛子。

てゆうか、助けろよ! と内心でツッコむ。

いずれにしても俺がピンチなのは変らない。


「お、落ち着けっ! シロもマリアも……」


このままでは不味いので、なんとか落ち着かせようと声をかけてみる。


「せんせぇ……」

「横島さん……」

「いよいよ青春クライマックスって感じよねぇー」

「てめぇは一人でくつろいでるんじゃねぇーー!!」


思わず愛子にツッコミを入れた――為に出来た隙にシロが踏み込んでくる。

俺が知る限り一番いいタイミングと斬撃の鋭さに、俺は自分が真っ二つになる所が頭に浮かぶ。


ガキィン


「!?」


すぐ近くで起こった激突音に俺が顔を上げると――。


「マリア!?」


マリアがシロの刀を横殴りして斬撃を弾いていた……助けてくれたのか?


「何をするでござるか!? 邪魔をするなら……」

「横島さんを・傷付けるのは駄目です。マリアが・守ります」


俺に切りかかろうとするシロをマリアが防いでくれる。

妖刀に操られている所為か、いつものシロ以上に直線的な動きの為、動きが読みやすいのだろう。

それでも人狼の動きについていっているマリアも凄い。

シロの斬撃をマリアが手に装備した鉄製の篭手で上手く捌いている。


「よく判らんが……助かった?」

「むむ、愛する男の子を巡って恋の闘争の開始ね……これもまた青春ね」

「青春かどうかかはともかく、今のうちに……」

「そして戦いの勝者が横島君をいただくと言う事ね。正に青い春だわ!!」


青春にゾクゾクと打ち震える愛子に、俺は一気に脱力した。










後編 中ってなんだ?(ゴラァ

ごめんなさい、終わりませんでした。

次で確実に終わります。なぜなら、ほとんど書き終えているからです。

もっと簡潔に文章を纏めたいのですが……修行中の未熟な身ですので……。

ちなみに、オリジナル物を一つ、テスト的に書いてみました。

GSのSSで、横島君が戦うシーンが書きたかったのですが、プロットを再編していて気がついたら……

『第5夜のGS試験編まで派手に活躍(戦闘)できない』事が判明しまして。

いろいろ考えてたら、ふと浮んだものですから。

……………………

さて、次回で終わります。ええ、確実ですよ。えっ、夜さんですか? まだ寝てますよ。

だから私的に平和な後書きなのです。


この頃に『妖』を書いたんですね。すっかり忘れてました(笑




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