「……ふぁ……ん、なにか有ったのか? ……っと!?」


ぽてぽてと寝惚け眼を擦りながらやって来た夜に美神達が詰め寄って一斉に話し始める。


「何か有ったじゃないわよ!! 横島君が……ついでにシロも……」

「兄さまが……机に……」

「横島が他の女と……」

「ヨコシマが馬鹿犬と一緒に……」

「お兄ちゃんがシロちゃんと知らない女の人と一緒に机に食べられたの!!」

『横島さんが封印されていた筈の机のあやかしに、シロちゃんと知らない女性と共に取り込まれたんです』


美神、優華、ルシオラ、タマモ、ひのめ、おキヌの言葉に、夜は静かに机を見つめる。

ふと足元を見るとズタボロになった初老の男と厄珍……少し離れた所には疲れて眠っている冥子がみえた。




GS横島

 番外7 夜の匣 〜お宝発見!? 後編後半〜




「……とりあえず状況を整理するか」


とりあえず夜は、皆の落ち着くのを待って事情を聞いた。


『確か100年程前に侵入者が居たと思いますけど……ごめんなさい、よく覚えてないんです』

「ま、仕方なかろう。前のシステムでは使い勝手が悪かったからな。一概におキヌの不手際とも言えん」


申し訳なさそうな様子のおキヌに夜は気にするなと声をかけた。

侵入者――というより囚われていた男、ドクター・カオスについてはオキヌの記憶と管理人室の記録により確認する。


「多分ドクター・カオスに間違いないと思うんだけど、こんな所に居たのね。道理で100年、行方知れずな訳ね」


そのカオスを冥子が解放し、今はズタボロで動かない。

まぁ不死らしいから死なないだろうと放置されている。

美神の言葉でカオスのことを再確認し、夜は改めて床に転がっている物体老人をみた。


「そのカオスが連れていたマリアと、シロが手に取った妖刀に『惚れ薬』がかかり、その相手が主殿だと言う訳だな」


そして厄珍は『惚れ薬』云々で八つ当たりされて三途の川を渡航中らしい。


「そして何故か封印が解けた机のあやかしが、呑み込んでしまった……と」


ふむふむと頷きながらしばらく考えていた夜が、不意に自らの足元の影に手を潜り込ませた。


「これでいいか……」


そう言って引き抜いた手に握られていたものはビリヤードのキューのようなロッドだった。

先端が針のように尖っている事を除けば、伸ばした神通棍のように見えなくもない。


「これは?」


美神の声に答えず夜はルシオラにロッドを渡す。


「私の指示するポイントに、これで正確に打ち込んで欲しい」

「これは何?」

渡された巨大な針のような道具にルシオラが尋ねる。


「神鉄で作られた一種の武器だ。神針と言うらしい。持てば判るが並の人間には使いこなせん。しかも……」

「私が並だって言うの? ちょっと貸しなさいよ!!」


夜に無視されたような形になった美神がルシオラから神針を取り上げた、途端にひっくり返る美神。


「な……なによ、これ!? 物凄く重い!? しかも霊力を吸われてる!? こんなの……」


倒れた美神の手から神針をルシオラに渡すと、夜はやれやれと言ったふうに美神をみた。


「だから言ったであろう? コレは武器としては優秀だが使い手が非常に限られる物なのだ。

使うには重量に負けない腕力と、多少霊力を吸われても問題ない程度の霊力容量が要るのだ。

この場ではルシオラが一番適役であろう」


美神のように腕力を霊力で増幅しているタイプの人間では使うのが難しい。腕力が有っても霊力不足なら使えない。

強力だが非常に使用者を選ぶ武器らしい。『匣』に収められている物品に相応しいともいえる。


「理解したか? では、私の指示するポイントに正確に、ミリ単位で打ち込んでくれ」


夜の言葉に最初は不満そうな美神だったが、夜のミリ単位の指定に素直に納得したようだ。

いくら美神でも使い慣れていない武器でそんな真似は出来ない。使えない武器なら尚更だ。


「いくら私でも……」

「精神を集中すれば先端の形状を調整する事が可能だ。マイクロ単位まで先端を細くすれば物品にも影響は無い」


気軽の言う夜に、ルシオラは半信半疑で先端に集中する、と神針の先端数センチが髪の毛のように細くなった。


「へぇ……」

「感心したか? 上手く制御すればイメージ通りに貫ける筈だ。……では始めるぞ」


夜の声を合図に、机の表面に影が目印のようにポツリと浮ぶ。


「あの点に0.1ミリ……次の点に0.15……次の点に……」


夜の指示に従いルシオラは机に向って神針を突き刺していった。




一方、愛子空間(机の中)では、シロとマリアの戦いが今も続いていた。

シロは妖刀に操られているが、マリアの方も人間じゃないみたいだし戦力的には互角のようだ。

逃げる事も出来ず、下手に手出しも出来ないので俺と愛子は離れた所で戦闘を見学しつつ話し合っていた。


「……て事は、クラスにいた生徒は本物の人間なのか?」

「そうよ。でも、さっき元の時代に帰したから、今は私達だけね」


学校妖怪愛子曰く、封印される前に取り込んだ人間達と学校生活をしていたらしい。

封印が解けた為、解放できたと言う訳だ。


「つまり俺がしたことは良い事なんだよな?」


愛子に『横島君が呪符を剥がして封印を解いてくれたのよ』と聞いた時には吃驚したが、結果は良かったみたいだ。

少なくとも美神さんにはシバカれずに済みそうなので一安心っと。


「あ……あぁぁ……ん……そん……な……とこ……やん……」


「え? なんだ? 急に、どうした?」


いきなり変な声をあげ始めた愛子に俺は慌てるが、愛子は頬を紅く染めて俺にしがみ付いてきた。


「や……だめ……そん……な所……だ……だめぇぇぇぇぇ」

「ちょ……ちょっと……愛子!? どうし……ヒィっ!!」


ただならぬ様子の愛子に尋ねる俺が見たものは――

いつの間にか戦闘を中断して、コチラをみつめるマリアとシロの眼差しだった。

何故か反射的に逃げ出したくなるような視線に硬直した俺に、愛子が更にしがみ付き嬌声のような声をあげる。

それに比例するようにマリアとシロからの視線の圧力が増していき……ふっとシロの姿が掻き消えた。


「!?」


俺の眼に一瞬シロの残像が残り、気が付いた時にはシロが目の前で刀を振り下ろす間際だった。

咄嗟に避けようとしたが、俺の前には愛子が居る。避ければ愛子が斬られる、逃げられない!?

迷った俺に、逃げる時間は既に無かった。無意識に愛子を庇うように抱え込んだ。


「せんせい……愛してます」


静かなシロの声だけが耳に響いて俺はシロの斬撃を覚悟した。


ガッ


奇妙な音がして、顔を上げると目の前に誰かの背中が映る。黒い皮製のような服を纏った――


「マリアか!?」

「横島さんは・マリアが守ります!!」


人狼の動きを上回る加速でシロと俺の間に回りこみ、妖刀を両手で挟み込むように押さえ込んでいる。

白刃取り? いや、妖刀を折るつもりなのか!? 

シロが妖刀でマリアを押し切ろうするが、マリアは妖刀を手の平で挟んで砕こうとしている。

人狼の力にマリアの身体のアチコチから軋むような音が聞える。

徐々に妖刀の刃がマリアに近づき、マリアが片膝をつく。


「まずい、マリア!!」


マリアの様子に俺は、思わず助けに入ろうと愛子を抱えたまま立ち上がった。


パキィン


奇妙に響く金属音、そして声にならない悲鳴が辺りに響き渡った。

駆け寄った俺が見たモノは、折れた妖刀を持ち崩れ落ちるように倒れかかってきたシロと、

身体のアチコチの関節部分から煙を上げるマリアの姿だった。


「シロ、マリア、大丈夫か?」


俺の声にシロが微かに顔を上げて何か呟いたが、そのまま俺の脚にしがみ付くような形で意識を失った。

疲れて眠った様子のシロにホッとして座り込んだ俺の背後から、マリアが腕を回して……きた!?


「横島……さん」

「な……マリア!?」


気が抜けて背後のマリアの動きに気付かなかった俺の脳裏に、ミンチになった自分の姿が一瞬にして浮ぶ。

シロと戦っていた時に見せた力なら間違いなく想像どおりの結果になるだろう。


「いや、待て……ちょっ……」


ミンチ目前の俺の上擦った声を聞きマリアが、じっと俺を見つめた。


「………………マリア・横島さん・好き。ドクター・カオスの1728.3%好き。ブレーカー作動!!


シューッ


身体の各部から蒸気を噴出しマリアの動きが止まる。

シロとの戦闘で無理した為にオーバーヒートしたのか?


「青春の結論……見届けたわ……」


愛子が息も絶え絶えな様子で呟き、満足げに微笑む……そして姿が消えた。


「え? 愛子!?」


俺にしがみ付いていた愛子の姿が消えたと同時に、周りの景色が歪んだように見えた――。




気が付くと俺は、『夜の匣』の通路に座り込んでいた。

周りには皆が居て、俺達を見ていた。

俺は足元にシロにしがみ付かれ、マリアに背後から抱き締められたまま動けない状態だった。

だから、せめて説明だけはと口を開いた。

美神さんの神通棍が唸りを上げて襲ってきた所までが、その日の俺が覚えている最後の光景だった。


「これも青春の1ページよね」


愛子の声が聞えた様な気がした。
















管理人日記 ○月×日 △曜日


本日、封印されていた机の妖、通称愛子に呑み込まれてしまった主殿と他2名を救出する為、

管理人権限により『神針』を使用。主殿が机の本体、愛子の傍に居た御陰で、机のツボを確認。

神針により刺激、密閉式結界を開放する事に成功した。

それ以外のハプニングは特に無く、ドクター・カオスとマリアは『夜の匣』より解放する事で処理した。

物品の整理は、ハプニングにも関わらず予定通り進んだ為、以後の私の負担も少しだが楽になるだろう。

管理人規約『労働による報酬』規定により、以下の物品を譲渡した事を此処に記す。


美神令子:爆霊符(分類ランクB:億単位相当の霊符。威力が大きすぎて普通には使えないのが欠点)

おキヌ :霊体でも着用可能な衣服数着(詳細は別項にて)&シメサバ丸(分類ランクC)包丁として再生、譲渡。

六道冥子:騒ぎを起こし、特に仕事もしていなかったので、飴玉一個。

ひのめ :世界料理&調理大全(分類ランクD:特に問題無し)

タマモ :薬学大全『上巻』(分類Aクラス)。タマモの御陰で作業が随分助かったので譲渡した。

ルシオラ:薬学大全『下巻』(分類Aクラス)。優華が欲しがったらしい。主殿を助けたので『神針』も譲渡した。

優華  :球根1つと家庭菜園用の道具一式(詳細、分類不明)。優華が欲しがった事と特に問題無いと判断、譲渡。

シロ  :妖刀八つ房(分類ランクB:本人の強い希望と条件付で許可)


シロについては「妖刀に操られたとはいえ、先生を切ろうとしたとは」と激しく後悔し、切腹云々の騒ぎになった。

落ち着かせた後、シロ曰く「二度と妖刀に操られぬよう強い精神を得る。その為の目標として『八つ房』が欲しい」

との言葉にその方が面白いと感じるものがあり、主殿の家にて多重結界を設置。

その中に、シロが妖刀に支配されぬだけの強さを得るまで保管するならばとの条件をつけ許可した。

現在、横島家の床の間、複合型積層多重結界の中に飾られている。

追記:重傷者3名。内訳、少年1名、中年1名、老人1名   以上          記入者 管理人『夜』




「ふう……やっと一段落ついたな」


んっ……と伸びをして日記をしまうと夜は湯気を立てている紅茶を口に含む。


「……ん?」


ふと、机の未整理書類の山に目が止まり、何気なく一冊、抜き出して見る。


「おや、こんな所に優華に譲渡した『球根』の資料が……えーと……分類Sクラス……」


後頭部にデッカイ汗を貼り付けて、しばし資料を眺めたまま硬直する。


「…………………………………」


夜は無言で、資料を棚に戻した。


「まぁ気にする事ではないな。巻き込まれるのは主殿達だし断腸の思いで主殿に試練を与えて成長を見守るとするか」


そう呟くと夜は寝室に向った。寝て忘れる事にしたらしい。













『夜の匣』編、終了です。この話はネタと新規登場キャラクターの為の舞台でした。

おかげでネタアイテムが流出し、番外ネタには困りませんよ(笑)

本編並の長さになってしまいましたが、本編でないのは番外ネタの為の前フリの為の話なので……

次回も番外予定ですが、これは第四夜の序章的な話です。一応書き上げているので近日中には公開予定グシャ

いきなり何をヲバッするンゲッバァッすかギャッご……ごめデベッなさいぃィビン………

夜:「ふう……(爽やかな笑顔で返り血を拭きつつ)。まったく、暫く私が後書きに出ていなかったらこのざまとは」

モザイクが掛かった物体:…………………………。

夜:「しかもオリジナル物を新規連載する予定を立て……」

モザイクが掛かった物体:…………………………(汗)。

夜:「私の出番を期待する読者の声を無視して新キャラを投入するとは……いい度胸だな」

モザイクが掛かった物体:…………………………(滝汗)。

夜:「ふっ……注釈付で無い為、これ以上は無理だが……」

モザイクが掛かった物体:…………………………??

夜:「注釈付で無い分、行間いぢめてやろう(にやり)」

モザイクが掛かった物体:……誰か助けてー!!(血涙)


この場合の注釈付きとは『バイオレンス』な表現の注釈です。

そして私の平和が終った時でもあります(滝涙)

夜:「そして今回も予定通り……物体と化すか?」

……誰か助けてー!!(血涙)




続く     戻る     目次