日曜の早朝に掛かってきた電話が始まりだった。
出掛けようとしていた矢先の電話に横島は一瞬迷ったが、受話器を取りに廊下を戻る。
「……はい、横島ですけど。あ、美神さん? 今から……えっ? いや、別に良いっスけど。はい……判りました」
かちゃりと受話器を置いた少年――横島は暫し考え込むとゆっくり頷き外に出掛けた。
距離にして100m程歩いた頃、横島は不意に立ち止まり深く深呼吸。
おもむろに顔を上げ力のかぎり……魂の奥から叫んだ。
「俺は自由だー!!」
横島十夜16歳。
別に囚われてはいない筈だが、高校生男子としてはある意味束縛されているらしい。
「ママ、あのお兄ちゃん……」
「……苦労してるのね。そっとしてあげなさいね」
通りすがりの親子が生温かく見守っていた。
GS横島十夜
番外8 横島十夜 〜平凡な日々〜 前半
突然訪れた近年稀に見るチャンスに俺は魂の咆哮を上げた。
そして少し落ち着くと少ない時間を有効に使うべく近くにある電話ボックスに向う。
懐のアドレス帳を確認しつつ俺は、今日の偶然を噛み締めていた。
何故なら、今日は俺だけなのだ!
すまん、端折り過ぎた。
つまり男の欲望を満たす媒体をGETするチャンスなのだ!!
……直接過ぎか。
要するに、今日は俺の近くに優華もルシオラもタマモもシロもベスパもパピリオも美神さんとおキヌちゃんも居ないのだ。
えっ、何故そんなに喜んでいるのかって? 決まってるじゃないか!
こんな貴重な状況で、健全な高校一年生が求めるものと言ったら、
エロ本、エロビデオ(CD、DVD含む)、エロゲーという三種のエロ媒体に決まっているじゃないか!
周りにあんな美人が居るのに何言ってやがるだと?
「周りに美人が居ても見たいモンは見たいんじゃー!!(血涙)」
はぁはぁはぁはぁ……すこし落ち着こう。
他人が見れば羨ましいかもしれんがな、エロ媒体の一つも所持していない高校1年ってのもどうよ? 結構生殺しだぞ?
……金額的には無理すれば買えるよ、一つぐらいは……な。でもな、見付かったら大変なんだよ。
今、普通に見付かったら恥かしいとか、嫌われるとか思った奴、俺の苦労はソレとは次元が違う……何故なら。
「見付かったらソレを参考に行動する奴が居るんだよぉー(絶叫)」
……それがどうしただと! 馬鹿野郎! ソレが天国だ? 羨ましいだ? 嫉妬の炎だ?
俺なんかな本気(マジ)で出血多量が原因で天国見たぞ! 地獄だったかもしれんがな。
とにかくだ。
今、優華とルシオラは今朝からシロタマ達の書類関係でシロタマ達と共に芦家に出掛け、
ベスパは仕事が有るとかで魔界に出掛けている。
パピリオとひのめちゃんは食い倒れに大阪に。
俺も誘われたが美神さんのバイトが有るので断った。
――のだが、先程の美神さんの電話で俺のバイトはキャンセルになった。
美神さんにしては珍しいミスだが今回の仕事場が男子禁制のカトリック系女子校だった事を
思い出し、今回はおキヌちゃんだけ連れて行くらしい。
まぁ、近頃稼ぎは少なく小粒な仕事が続いていたからなぁ……。
普段の美神さんなら受けないような(報酬の)小さな仕事。
だけど、普段の得意先や美智恵さんの紹介などの断り難い、断れない仕事が続いてたからな。
雑魚が相手の仕事とはいえ、こうも連続で、しかも稼ぎが少ない仕事だ。美神さんも疲れてたんだろうな。
予定では芦家に行ったシロタマ達が、昼過ぎに現場で合流する段取りになっていた筈だから人数に問題は無いだろう。
今回の除霊も簡単なモノだって美神さんが言ってたしな。もちろん美智恵さんは出張中の筈だ。
夜は寝ているらしく静かだ……あいつに関しては考えないで置こう(涙)
あとは(女性の)知人にさえ会わなければ漢の本懐を遂げる事が出来る筈。
俺は逸る気持ちを抑えながらアドレス帳を片手に受話器持ち上げ肩と顎で挟むとテレカを挿入、
ゆっくりとプッシュボタンを押していく。先ずはA川から……
ぴぽぱぴぽぴぽ……
とぅるるるる……とぅるるるる……とぅるるるる……がちゃっ
『はい……A川ですが……』
「あ、俺、横島。A川、今日暇だろ。前に言ってた――」
『悪い、横島。今日急に予定入っちゃってさ……』
「え……そうか……しゃーないな」
『悪い、今度埋め合わせするからさ』
「ああ、今度な……じゃな……」
がちゃり
……急だしな。一人ぐらいはしゃーねぇか。次だ次、えーと……。
ぴぽぱぴぽぴぽ……
とぅるるるる……とぅるるるる……とぅるるるる……がちゃっ
『ハイ……』
「俺、横島……今日、空いてるだろ? 実は――」
『え? あ……その……悪い、今から出掛けなくちゃならないんだ。悪いな』
「え? でも昨日……」
「悪い、横島。空いてる筈だったんだが……」
「ま……まぁ仕方ないか……」
『済まん、横島。今度な』
がちゃり
そ……そんな事もあるさ。つ……次だ次!
『はい……』「俺だけど――」『済まん横島』「え、ちょっと……」
つーつーつーつーつーつーつー…………
『はーい……』「俺だけど――」『急に腹痛が……』「元気そうだったじゃねぇか!」『そゆ事で……』「ちょ……」
つーつーつーつーつーつーつー…………
『はいっ……』「俺だけど――」『悪い、俺も命は惜しいんだ……』「え? 何のことだ……って、オイッ!」
つーつーつーつーつーつーつー…………
『…………』「俺だけど――」『現在この電話は……』「………………」
つーつーつーつーつーつーつー…………
ぴぴーぴぴーぴぴーぴぴーぴぴー…………
気がつくと21度数有った筈のテレカが空になって電話機から吐き出されていた。
のろのろとした動きでスロットから空のテレカを引き抜いて鳴っている電子音を止める。
そのままズルズルとボックス内に座りこむ。
期待していたものが喪失した空虚感が俺の心を占める。
前に約束していた同じクラスや他のクラスの男子生徒達の奇妙な返事……
一瞬、新手の虐めか? とも思わないでもなかったが漢の生き様(エロ限定)に共感を覚えた同志達だ。
そんな真似をするとは思えない。
まるで誰かに脅されているような……そんな感じさえ受けた。
もしくは運命の女神が俺にいぢわるでもしてるのだろうか?
ぼんやりとしたまま立ち上がると、のろのろとした足取りで歩き出す。
その歩みは次第に速くなり……気がつくと駆け出していた。
駆け出しながら空しさと悲しさと切なさが込み上げてくる。
「どちくしょー!!」
気がつけば泣きながら俺は街中を疾走していた。
「ママ、あのお兄ちゃん……また……」
「……苦労してるのね。そっとしてあげなさいね」
通りすがりの親子が再び生温かく見守っていた。
御久しぶりです。久々です。こんな形ですが再開します。
さて、いつものように長くなったのでカット……なぜ、長くなるんでしょうね?
答え:未熟だから(夜天の声)
諸々の事情でしばらく止まってて、再開した回ですね。
夜:「番外編と言いながら本編第四夜序章の回だな」
それに関しては、番外編の定義は『原作』外という位置付けなのですよ。
夜:「つまり限りなく本編に近いが、貴様は番外とすると言う訳か」
まぁ、書き始めた当初は題名どおり『平凡な日々』を書こうとしてたので(笑)
夜:「うむ。私という僕が居る以上、主殿の日常は常に面白おかしくなるようにせねばな」
日々策謀努力してるんですね(汗)……でも今回は不参加ですか?
夜:「すでに手は打ってあるのだ。……まぁ今回は皆との共同作戦になってしまったが」
……アレですか(汗)
夜:「うむ、アレだ。第一、私という僕がありながらエロ媒体などに、うつつを抜かす事など私が許さん」
(束縛されている……)
夜:「何か言いたい事がありそうだが……」
イイエナニモアリマセンヨ!
夜:「それは次回でハッキリさせるとしよう」
………では次回で(泣)