前回より間が開きましたが続きです。
「どちくしょー!!」
叫んで駆けていた俺を誰かが呼んだ。
「十夜坊か?」
「!? あれ? 源さん? 源徳爺さん!?」
呼び止められて急停止した俺は、知り合いの爺さんの顔を見つけて驚く。
「久しぶりじゃねぇか、相変わらず元気そうでなによりだ」
「ソレは俺のセリフだ。そっちこそマダマダくたばりそうにねぇな」
元気一杯の下町出身の爺さん、
源徳爺さんが頑丈そうな鉄の自転車押しながら挨拶してくるのをみて俺も笑いながら応えた。
「あたぼうよっ! まだまだ若いもんには負けんぞぉ!」
「てゆうか、爺さん元気良過ぎ……も少し老人らしくしたらどーだ?」
「馬鹿野郎! まだまだワシは若いぞ! 身体が動く限り生涯現役だわい」
そう言って豪快に笑う爺さんだが……確か昭和一桁の生まれだった筈。
昔は腕の良い漁師だった爺さんだが、今は乾物屋の主人をしている。
頑固な職人気質、豪快で短気だが義理人情に厚いこの爺さんを俺は嫌いじゃない。
爺さんも俺の事を気に入ってくれてるらしく色々世話になることがあった。
「……あれ? て事は、ココは下町か?」
源徳爺さんが居る事から自分の居る場所に気付く。
爺さんの行動半径は下町近辺だった筈。
叫びながら走ってたから気付かなかった。だって涙で前が良く見えなかったからね。
「応よって、いつもみたいにまた誰かに振られたのか……てシマッ……!!」
源徳爺さんが自分の失言に気付いて慌てて口を塞いだ時には既に、俺はドンヨリとした空気を纏っていた。
「どーせ、どーせ俺はモテナイですよ……いつものコトデスヨー……」
「す、すまねぇ……口が滑っ……じゃねぇ……と、兎に角だ!」
ごそごそと爺さんは自転車の後部に括りつけてある木箱から商品を取り出し俺に渡す。
「いりこ食え、落ち込んだときはカルシュウムが良いって言うしな」
(……カルシウムはイライラした時じゃ無かったっけ?)
そんな事を考えながら、俺は爺さんなりの慰めの品――今回は『いりこ』――を受け取った。
GS横島十夜
番外8 横島十夜 〜平凡な日々〜 後半
ぼりぼりと『いりこ』を齧りながら下町を歩く。
ここの住人とは昔、仕事関係――美智恵さんの手伝い――で知り合った。
大阪から引っ越して来て暫く経った頃だから俺が中一の頃か。
爺さん達とはその頃からの知り合いだな。
会った当時はオカルト絡みだったから色々な目で見られたが。
今では子供の頃からの付き合いのように接してくれる。
俺も金が無い時はココで遊んだっけ……駄菓子屋の婆ちゃん元気かな。
いつ見ても同じ位置に置物のように居たっけ。
考えたら久しぶりだよな。
美神さんのバイトで忙しかったし、受験……も有ったし、シロタマの事や他にも……な。
「偶にはココでウロウロするのも悪くないかな」
俺に気付いた人に適当に挨拶しながら軒先を見て周る。
久しぶりだと懐かしく感じるな。1年ぶりぐらいだからな。
「お、十夜くんじゃないか?」
「あれ? 八百屋の稲さん、ひさしぶり」
少し小太りの40台後半にみえる八百屋の主人が声を掛けてくる。
口は軽いが明るい性格のこのオッサンは源徳爺さん同様、俺が男で名前を覚えている数少ない例外の一人だ。
ココに来る度に何かくれたしな。
俺が覚える理由としては十分だ……でも考えてみると餌付けみたいなモンか。
「今日は一人かい? 優華ちゃんはどうしたい?」
俺にリンゴを放りながら気さくに話し掛けてくる。
片手でリンゴを受け取った俺は礼を言いながら返答する。
「ああ、優華なら用事で京都の方まで」
「京都? じゃあ置いてけぼりかい? 折角の日曜だってのに……デートの相手も居ないの……むぐっ」
稲のおっさんが気付いて口を塞ぐと同時に、
スパーン
小気味良い音が八百屋の主人の後頭部で発生した。
口の軽い主人に奥さんが愛用のハリセンで突っ込んだ音だ。
「あんた! ソレは十夜ちゃんには禁句だってアレほど……」
「だってよ、まさかマダとは思わんかったんだって……」
八百屋夫婦が何か言っていたようだが、今の俺にその言葉を聞く気力は無かった。
まるでドナドナの子牛のような雰囲気を漂わせつつ俺はトボトボと歩いてゆく。
「……優華ちゃんも苦労するねぇ」
「あそこまで鈍いと問題なんじゃないのかい?」
八百屋夫婦の呟きは、周りの人々の感想でもあった。
「はぁー……」
俺の溜め息が薄暗い路地裏に吐き出される。
暗い気分のまま歩いていたら吸い込まれるようにココに入っていた。
しゃがみこんで溜め息を吐く。
時々思い出したように袋の『いりこ』を齧る。
久しぶりにココに来て落ち込んだら、昔の癖でココに来てしまったようだ。
薄暗い路地裏で、溜め息を吐く俺。寂しい光景だが――。
トン、と俺の1mほど手前に青灰色の塊が降り立つ。
「にゃあ」
「おっ、アオか、久しぶり」
まだドンヨリとした雰囲気だが、微かに笑って横島は現れた猫に声をかける。
「にゃーお」
挨拶するように一声鳴いて近づいて来た猫――アオ――を撫ぜながら手に持った『いりこ』を分けてやる。
「何か懐かしいな……」
そう一人ごちた横島をアオと呼ばれた猫はじっと見ていた。
※注:ここから猫語の翻訳文が()に入ります。ただし横島には鳴き声としか聴こえていません。
「遠慮するなよ。源徳さんとこの『いりこ』だぞ? それとも腹一杯か?」
「にゃあーぉ」(源徳さんのいりこですかい。ありがたく頂戴いたしやす)
俺の差し出した『いりこ』をアオが一声鳴いて食べ始める。
「お、やっぱり腹減ってんだな。悪いな、飼ってやれれば良かったんだが」
「なーぉぐるるぅ……」(とんでもねぇ、旦那にはでっけぇ恩がありやす。あっしはこれ以上は望みやせん)
俺の呟きにアオが顔を上げて返事を返した。
「ま……まぁ、優華の観葉植物が雑食じゃなけりゃな……」
「なぁ……ぉー」(確かに……しかし、あの経験があっしを鍛えてくれたんでさぁ)
俺はアオと名付けた猫を撫ぜながら思い出す。
たしかココで鳴いてる仔猫を拾ったんだよな。
「寒さで震えて心細そうに鳴いてるお前を見て、つい拾っちゃたんだよな」
「なう」(その御陰で生き残る事が出来たんですぜ。あっしが旦那に一生掛かっても返しきれねぇ恩でさぁ)
ゆっくりとアオの頭を撫ぜながら俺はそのときの事を思い出す。
「ま、何とか独り立ちするまで家で飼えたから……今も元気そうだしな」
「にゃーお……なうー」(そう言う旦那は元気がねぇみたいじゃないですかい。あっしで良ければ相談に乗りやすぜ)
まるで励ますように擦り寄ってくるアオに苦笑しつつも、俺は独り言のように呟いてしまう。
「はぁ……なんで今日に限って……漢の本懐を遂げるチャンスなのに……」
「なーうごろごろごろ」(なるほど……つまり旦那の漢を磨くチャンスなのに上手くいかなかった……と)
とん、と俺の肩の上に乗り擦り寄ってくるアオに俺は苦笑する。
「……慰めてくれるのか。いつも済まないねぇ……」
「なーおぐるるる」(なに言ってるんですか。みずくさい、あっしと旦那の仲じゃねぇですか。遠慮は不要ですぜ)
猫に慰められる俺。
傍から見ると寂しい人に見えるかも知れない。
が、時期は中学の頃、東京に越してきたばかり。
その頃の俺に『エロ媒体が入手出来ないで困っています』なんて事を言える相手は他に居なかった。
まさか優華達に言う訳にもいくまい。
かと言って黙っているのもなんだ……つまり王様の耳はロバの耳ってやつだ。
そんで相手が側に居たアオだったって訳だ。
それから何と無くアオ――猫――相手に相談(?)する事が度々あった……昔の思い出だ。
「てゆうか、誰かに言ってスッキリしたかったんだよな……」
「なぁーん」(あっしでよければいくらでも付き合いますぜ)
アオの頭を撫ぜながら……ふと気付くと猫が周りに集まってきていた。
近所の飼い猫や野良猫達だ。
「お前達も『いりこ』欲しいのか?」
俺が声を掛けるとアオが俺の頭の上に乗り一声鳴いた。
「なぁーう」(おまえら、だんなに挨拶しな。くれぐれも失礼のないようにな)
その声に他の猫達が応える。
「なーご」(御久しぶりです、十夜さん。わたし……)
「なーお」(久しぶりっス、俺の事覚えて……)
「なぁー」(お久しゅうございます。お元気そうで……)
「みゃーお」(お久しぶりでございます。会えて嬉しい……)
一斉に鳴き始めた猫達……その後ろから仔猫達が飛び出してきた!?
「にゃー」(十夜にーちゃん)
「にゃー」(遊んでー)
「にゃー」(遊んでー)
「にゃー」(一緒に遊ぼー)
「にゃー」(遊ぼー)
「にゃー」(遊ぼーよー)
あっと言う間に俺の周りに群がった仔猫達……20匹ぐらい居るんじゃないか。
その仔猫達が俺の身体を攀じ登って、気が付くと俺は猫まみれ? もしくは猫団子状態だ。
何が楽しいのか俺にしがみ付いてぶら下がっている。なんかコレも久しぶりだな。
「にゃお!……ごろごろごろ……」(こら、お前達! ……すいやせん旦那、こいつらと来たら……)
威嚇のような声を上げるアオ――俺の頭の上だが――を撫ぜながら苦笑する。
この辺りの猫と遊んでいたら懐かれて、気が付くと猫団子状態になったっけ……忘れてたな。
「いいよ、アオ。気にするな。暫くは遊んでやるさ。俺も暇……だしな」
考えたら金の無い俺に急に出来た暇だ。猫と戯れるのも悪くないだろう。
ちょっぴり悲スぃーがな。
「今日は一日こんな感じで過ごすか……猫の毛だらけになりそうだが……な」
20匹以上――向うから追加が走って来ているようにみえるが――仔猫をぶら下げながら俺は立ち上がり……小さく呟く。
「何か来る……?」
「にゃっ」(旦那?)
俺の呟きにアオが短く鳴き、周りの猫達、俺にしがみ付いている仔猫達も静まり返る。
背後、この路地裏に足を踏み込んだ人以外の気配を持つモノ。
ゆっくりと両眼を蒼く変えながら、俺は静かに振り向いた。
猫をぶら下げたままだけどね。
路地裏に立つ小さな人影……そこに立っていたのは――。
フェイトな世界から帰還した夜魔秀一です。遅くなりましたが続きです。
はい、第四夜序章です。横島君の稀な平凡な日常です。稀な時点で平凡じゃないですね(汗)
えーここでも人以外にモテルのは健在なようでして……子供(仔猫)にも大人気です。
ちなみに今回の裏テーマは『爺と猫』です。なんとなく書いてみたくなりました。如何でしたか?
この後、童子or童女の登場となります。
なお、番外なのは最後のシーンで後ろに居るのが一般人の場合、事件には派生しないからです(笑)
(そういえば、この頃にクリアしましたっけ……『セイバーたん最高!!』と叫んでいた時期ですね)
夜:「遠い眼で何を思い出しているのだ?」
(そういえば、この頃、某掲示板でいろいろ有って……)
夜:「最初に『前回より間が〜』の説明でも考えているのか?」
(で……)
夜:「む? どうした? さっきから一言も喋らないとは……」
……むぐ? んんーんーんんんーーっ!!(へ? 猿轡に全身縛っておいてどうしろとーーっ!!)
夜:「なにを言っているのかは判らんが――」
むぅ?
夜:「未だに『セイバーたん最高!!』と考えていることぐらいは判るぞ」
!?(なぜソレを!?)
夜:「貴様の戯言はこれくらいにして、何故このような状況かわかっているだろう?」
んーん(いえ、まったく(滝汗))
夜:「ふむ。では答えよう。なに、簡単な話だ」
んむぅーんーんーんんん(いえ、答えより出来れば開放してほしいです)
夜:「それはな、読者の方々が恒例行事を期待しているからだ」
んんんんんんっ……ぷはっ! そんな理不尽な恒例行事は、い
ぐごしゃ
ぐちゃっ
ごりっ
夜:「任務終了。では次回は本編で……」
……て、手加減が欲しい……ぱたっ(昏睡)