** 雨さらさ
さあさあと雨が降る。
昼間ではあるが薄暗く、空は灰がかかっている。
いつもならば外で訓練を行っているはずの兵士達の姿も今はない。
そんな風景を花はぼんやりと眺めていた。
あたりを満たす湿気も思ったほど気にはならない。
晴れの日のにぎやかさはなく、雨音だけが耳に届く。
自分はこの世界に留まることにしたのだ、と改めて思うのはこんなときだ。
後悔はしていない。
自分で決めたことだ。
この世界に、ここに必要とされている。受け入れてくれる人達がいる。
それに何より―……。
「花殿」
自分を呼ぶ声に思考が止まる。
まさに今、思いを馳せていた人物によって。
「子龍くん。どうしたの?」
「特に用があったというのではないのですが、あなたの姿が見えたので。……何をしていらしたんですか?」
そのまま子龍は花の横に並ぶ。
問われた花は微かに笑う。
「雨を見ていたの。雨の日はいつもと違うなー、と思って。……なんだか色々考えちゃった」
そこで言葉を切る。
「……そうですか」
沈黙。
けれど気の詰まるものではない。
雨の音と、隣には想い合う人。
隣り合う空間があたたかい。内側から想いがあふれ出てあたりを満たしているかのようだ。
「まだ見ておられますか?」
先に言葉を発したのは子龍だった。
「え……あ、ごめん。子龍くんを付き合わせて」
「いえ、問題ありません。ただ、あまり長い間このような場所にいては身体が冷えます。まだ居られるのでしたら、何か羽織るものを持ってまいります」
確かに子龍の言う通り、身体は冷えてきていた。
もう少し雨を眺めていてもいいが、それよりも別の考えが浮かんだ。
「ううん。もういいよ、ありがとう。ね、子龍くんはこの後、ちょっと時間ある?」
「ありますが……?」
両手を胸元で合わせ、花は言う。
「なら、一緒にお茶にしよう!雲長さんからもらったおやつがあるし、子龍くんも身体が冷えたでしょう?」
お茶の提案をしながら笑顔になる花につられ、子龍の口元にも笑みが浮かぶ。
「そういうことでしたら、喜んで」
「じゃ、私の部屋に行こう」
「はい」
並んで歩く。
ただそれだけのこんな時間がたまらなく嬉しい。
心配事がまったくないわけではないけれど。
ここにいるのは子龍がいてくれるからでもある。
今の自分にできること、これからしなければならないことがあるのはわかっているつもりだ。
その想いがあるから、今、この時が大切にできる。
さあさあと雨音が耳に届く。
まだ、止む気配はない。
2011/08/20…修正