遊び仲間とその期間







「貴方には無理だと思うな」
「なに?」


細い窓から差し込む光が真っ白な布に乱反射していた。
その光の乱反射を暗い革に身を包んだ少年が音もなく吸い込む。
周りに街らしい街もない孤独な土地は鳥の声さえまばらだ。

「貴方はまだ探してるんでしょう」
くつくつと咽喉を鳴らして可笑しくて堪らない風に肩を揺らす。
細められる魔晄色の瞳が神経に障る。
「けど貴方には無理だよ。見つけられっこない」
深いフード越しに睨みつけようとすると、少年が車椅子の肘を両手で掴むのが見えた。
眼前に立ちはだかる少年はそのまま動こうとしない。
「邪魔だ」
トーンダウンした声でねめつけると頭上からふうん、と楽しげな声が響いた。
「何故かとは聞かないの?社長さん」
「一体なんの話だ」
言い切ると同時に不意に空気が動いた。ぐっとカダージュが身を乗り出す。
椅子が二人分の体重を受けてきしりと鳴った。

「まだ探してるんでしょ…約束の地」

ギリギリまで近付いた冷たい横顔は耳元にまるでまじないのように言葉を注ぎ込んだ。
新緑のような、しかし人工的な匂いがカダージュから漂う。
依然椅子を離そうとしない少年はねだるように「ねえ」と返事を促す。
ルーファウスは押し黙った。

「聞いてるだけじゃないか。だから、こうやって同盟を組んでいるんだろう?」
ぎし、と両の足の間に分け入るように身体を乗り出される。
ぎょっとして視線を戻すと思いの外距離が近かった。
「退け。なんの真似だ、カダージュ」
タークスの姿が見えない。
歯噛みする思いで、身体を押し返そうとした。が、逆にその手首を捕まれる。

「社長さん」

まるで歌を歌うみたいに楽しげに。
カダージュの細い瞳孔が更に細められる。獣のようだ。
「貴方のやっていることはまるで意味のない事だね」
ルーファウスの片手を掴んだまま、もう一方でカダージュは白くその身を
覆っているローブを持ち上げる。
顔半分を隠すフードが引き上げられそうになる。
「やめろッ」
咄嗟にカダージュの手首を引き掴む。必死に掴んだ手首は折れそうなくらい
細いのに肉が落ちた自分の力では押し返せそうになかった。
「ッ!!」
ガシャン、と背後の細いパイプが衝撃に鳴る。
両手を車椅子に押し付けられて入り込まれた身体は身動きが取れなかった。
「顔を見られるのがそんなに嫌?」
ギリギリと掴み上げる手は、全くの抵抗を許さない。
「綺麗なのに、勿体無いね」
クスリ、と笑う銀髪にあの日の彼が重なったような気がした。
ぬるりと唇を滑る焦れた動きに似たものを感じる。
瞬間、詰めた息が乱れるとその隙をついて熱い舌が口腔に入り込んだ。
口蓋をくすぐる舌に飲み込めない唾液が口の端から零れそうになった。
室内に差し込む光に冷たい銀色の髪が揺れた。眩しさに目がくらむ。
もっと深く。角度を変えて奥深くまで入り込まれる。
そうして堪えきれない吐息が漏れた時、溢れた唾液が口角から一筋伝った。

「僕に誰を見ていたの」
手首に綺麗に鬱血した手形の痕を残して、肩で息をする彼を解放してやる。
久々に見た青い目は、冷たいくせによく人を誘い込んだ。
「貴様…っ」
ぐい、と顎を伝う唾液を手の甲で拭い取ると常ならぬ感情を丸出しにしてルーファウスが吼えた。
「抵抗しなかったじゃないか」
いけしゃあしゃあと手首の痕を見つつ言ってのける。

─たまにならいいじゃない、こんな遊びも。

「約束の地を探す遊びよりよっぽど楽しいじゃない」

「次やったら覚悟しろ。蜂の巣にしてやる」


どちらも楽しい遊び。真剣勝負で命懸け。
どちらも等しく楽しいけれど、どちらも等しく意味が無い。

 



 

違う…最初はシリアスだったはず…。でも…なんて言うか…
  楽  し  か  っ  た  !
約束の地は兄さんしか見つけられないから貴方はどう足掻いたって
無理だよ的な事を言って社長を気落ちさせたかっただけなのに
なんかなんでこんなことに。謎。小さくセフィルーも混じってたり。