不認知

 

空が赤かった。

「           」

驚くともなしに短く嘆息する。

神羅ビル最上階の社長室天井がまるで冗談のように吹き飛ばされた。

そこからぽっかりと開いた穴はこの部屋の階数を忘れさせる。

ルーファウスは自分が深い底に落ちてしまったことを痛感した。

空が赤いのは、なにも血のせいばかりではない。

現実にあの血色をした隕石は、墜ちる。

体は自由に動いてくれずじんわりと広がる液体は彼のスーツを汚した。

からっぽの気分で明るく輝く星を見る。

死の恐怖と痛みはあまりに大きく許容範囲を越えてどうでもよくなった。

多分もう駄目なんだろうと。

この世にこんなにも未練がないのは情け無く、悔しくもあったがこれで終わりかと思ったら

自嘲の笑みがこぼれた。

これじゃあ、まるで気違いだと思ったがその考えすらも馬鹿らしく、笑えた。

怪我のせいで哄笑とまではいかなかったがその声を探り当てたのだろう、まわりを取り囲んでいた

壁が崩れた。

思わず死神かと思う。その人の髪も赤かったから。

「こんなとこで死にかかって笑ってる馬鹿はあんたぐらいだ」

ぴたりと笑うのを止めた。

視界の隅でとらえた赤毛は、ルーファウスを抱き締めた。

良かった、と届いた声はかすれていた。

 

ルーファウスはその声のせいで、初めて恐怖と激痛とを感じた。