自分の望むままにここから、進む事も戻る事も出来るのに  



ニュートラル




晩秋の山中はうるさい。
立ち止まれば静穏と孤独に押し潰されそうなのに、緩まる気配もない足音はざぁざぁと落ち葉を掻き分けて進む。
赤や黄色、茶色など点描画のように様々な色の絨毯をかき乱しながら彼は無言で先を急ぐ。
白っぽい灰色の薄いコートが、賑やかな秋の山の中で異質にひらめいている。
どうして突然彼がこの山に自分を誘ったのか全く分からなかった。
ただ彼に付き従って2人して暖かな秋空のもと歩を進めている。
いや、彼は自分を誘っただろうか?
なぜ自分はここにいるんだろうか?
時折囀る小鳥の声に耳を傾ける事もなく力任せに道を進んでいく。
整備されてはいるといえ山の遊歩道には落ち葉が際限なく降り積もっていて
それを容赦なく踏みつけるルーファウスは足元の絵画など眼中に無いようだった。
だんだん彼の呼吸が険しい傾斜に荒くなっている。
ふと、彼の靴を見た。

…革靴だった。

本当に一体どうしたというんだろう。
だが彼の厳しい背中と張り詰めた雰囲気にクラウドは何も言えなかった。
鳶の甲高い鳴き声が遠くの空で木霊していた。
「ど、どこに行くんだよルーファウス」
突然、今まで遊歩道の標識に素直に従っていたルーファウスがコースを変えた。
石畳の遊歩道から本当の獣道へとどんどん進んでいく。
「こっちでいいんだ」
なにかの確信を持って彼は不慣れな土の上を歩く。
ごつごつと地表の上に顔をだした石に身体を傾けながらそれでも必死に歩く。
「なに言ってんだよ!馬鹿な事言ってないで早く戻ろうぜ」
ぐい、と彼の腕を引いた。
もう既に疲れきっている彼はそれ程力を込めなくてもすぐに止まった。
「…」
俺を見ようともしない。
ルーファウスは下を向いて押し黙っていた。
唇を噛んでいるようだった。
「なあ…、一体どうしたんだよ。黙ってないで少しは喋ろよ」
また、だんまり。
付き合ってられない。
どこまでも高い青空は雲一つ無く、姿の見えない鳥の声だけが聞こえる。
一体どうしたんだよ。理由も無くこんな場所に来るとは思えない。
「…頼む」
「何も言わずに一緒に来てくれ」
下を向いたまま無感情な声でそう告げる彼。

俺は問いただす勇気を持ち合わせていなかった。

それからまた少し日が傾いた頃、彼の後ろを余所見をして歩いていた俺は
立ち止まった彼の背中に鼻をぶつけてしまった。
「きゅ、急に立ち止まるんじゃねえよ…」
鼻を押さえて彼を見る。いい加減俺も疲れてきた。
「…」
まただんまりか。
ルーファウスは今度は足元をじっと見ている。
「今度はどうしたのさ」
「ここに」
突然彼のよく通る声が響く。
「ここにあいつがいるんだ」


                  未完。埋まっているのは調査課のあの人。
                      掘り返すつもりだったのか、会いに来ただけなのか忘れちゃった。
                      落ちが決まるまで待機。てかずっと待機。