詐欺言葉


「足を上げなさい」
言ってる内容とは裏腹に、口調はまるで自分の実験動物を見てるよう。頭に来る。
どうしてこんな時まで冷静なんだよお前は。
俺ときたら馬鹿みたいに素直に従って、色狂いみたいに悲鳴を上げるだけ。
軽蔑してるだろ。だけどそれはお前のせいだ。
「っ・・・!・ちょ・・・ま、待ッ」
一体何回言えば気が済むんだ。待てって言ってんのに勝手に押し入って来るな。
痛いって叫んでんだから少しは俺のこと気遣え。
「っひ・・・あ・・あ・・・んっ」
笑ってんだろ。だからお前は必要以上に俺の瞳を覗き込む。
俺は瞳を閉じることを許されていない。
俺だって好きでこうなってんじゃない。あんたが、お前が・・・・。
目の前が白く明滅する。強い衝撃に揺らされ、口をついて出るのは喘ぎ声と悲鳴めいた嬌声ぐらい。
「あ、・・・っはぁ・・あ・・・・・フィロ・・・ス・・」
その行為の仕草があまりにも似ているから。
思わず仕事の延長線上で付き合っている奴の名が上った。
しまった、怒ったかな?
彼の目を盗んで固く閉じていた瞳を、おそるおそる開いてみると案の定だ。
「奴ともこんなことをしているのか、・・・ルーファウス?」
そんなに薄く微笑むなよ。激昂して罵倒、を期待していたわけじゃないけどそんな表情を見たいわけじゃない。
このつかみ所のない科学者とは長い付き合いだ。
こんな時にこいつがすることといったら、ろくなものがない。
冗談じゃない、明日は会議がある。
宝条の戯れ事に付き合うにはリスクが大きすぎる。
「・・・ほぅじょう・・・明日、会議があること・・」
「もちろん忘れてはいないさ。もっとも、お前はそれに出れんだろうが
ね」
油断してたら瞳を舐められた。この最低さったらないよ。痛くって。
我慢できる出来ないの問題じゃない。どうしようもなく痛いって言ってるのに。
そうやっていつも無理矢理、俺に涙を浮かべさせる。
頤を強引に上向けにされた。クスリの甘ったるいニオイがする。
お前自ら飲み下させてくれるクスリは、俺には強過ぎるんだけど。
そういうのは普段からクスリに慣れてるスラムの奴らに使えよな。
咽喉が枯れるほど狂わして楽しい?
縋り付けるのがお前しかいないからそうしてるだけなんだ。
分かってるくせに、こんなガキのすることなんてお前全部お見通しなんだろ。
口先だけの言葉は聞き飽きた。常用性の嘘はあんたの特権。
それに引っ掛かるだけの俺にも、もう飽きたに違いない。
いいからもう、俺を眠らしてよ。

頼むから。