酒の所為




酒の所為だ。
窓から差し込む弱々しい冬の光の中レノはそう思った。
うう、と呻くと頭がずんと自己主張のようにそれに応えた。
撫でるような朝日は中々身体を温めてはくれない。


暖房止めたっけかなあ‥‥
あーくそ鼻が冷たい


冬の冷気に呼吸のたび鼻の奥がつん、と痛んだ。
と、無意識に鼻に持っていこうとした手がそれまで気にも止めて
いなかった重みに止められた。
幾分ぎょ、と瞼を持ち上げると飛び込んできたのは日の光よりも
鮮やかな金色。
 
「え」

思わず出た声は冬の朝の物寂しい寝室に少し間抜けに響いた。
金色のそれは規則正しい寝息を吐いて小さく丸まっていた。
自分の腕に丁度上手く収まった頭。
行儀よく並んでいる、髪の色と同じ睫毛。
その下には今日の空と同じようなつめたく澄んだ青が眠っている。

「ルーファウス‥‥」

なんで、思った瞬間に寝惚け気味の脳裏に昨日の情交が浮かんだ。


あー‥ 
暖房、暑くなって消したんだった


空いている片手でがしがしと自分の赤い髪を混ぜる。

ルーファウスの浮かぶ汗に
自分の上がる息に
真冬にもかかわらず

その時は、
二人の体温でも寒いとは感じなかった


ああ そうだった
暖房、消したんだよなあ
だよなあ そうだった
だから俺の鼻、こんなにつめたいんだ


ふふ、と笑うとその振動が腕から伝わったのかルーファウスが身じろぎした。
ルーファウスが朝まで一緒に居るのは珍しい。


多分 酒の所為だろうな


それが唯一口惜しかったがあまり見ないルーファウスの寝顔に二日酔いの頭痛も飛んだ。
ルーファウスは綺麗だ。あまりに綺麗だから動かないとまるで人形のように見える。
強い眼差しの目も閉じられている。
だが腕に乗る頭から、自分のシャツを握る手から確かな体温が伝わってくる。
そっと腕の中のルーファウスを引き寄せて鼓動を確かめると、その音は子守歌のようにレノを
二度寝の波に誘った。

「‥ルーファウス‥‥‥」

眠りに落ちる前、レノの囁いた音はルーファウスの耳に心地好く響いた。
微かにルーファウスが微笑んだことをレノは知らない。










微かな振動にふと睡眠の波から抜け出した。
途端流れ込んできた冷たい空気に身じろぎすると静かにレノが自分を引き寄せたのが分かった。
もぞもぞと自分の肩口に顔を埋める赤毛の男。
肩に押し付けられる鼻が冷たい。
文句を言おうと言いかけた開いた口から、意に反して平和な欠伸が漏れた。
まだ眠りの海はルーファウスを離そうとはしないらしい。
優しい冬の朝日も、目を開けさせるというよりは再び閉じさせるようにそっと差し込む。



あー‥
いいか 
まあ こんな日があっても
たまには‥

ルーファウス、と囁く声が、自分以上に眠たそうで、それでも自分の名を呼んだ事が素直に嬉しかった。
レノの体温の中で顔が綻ぶのを感じた。

おわり