惜別


 

ツォンの行方が分からなくなって、もう随分経つ。
イリーナは気丈に振舞っているが、やはりまだ痛々しい。
他のタークスメンバーの動揺は収まってきた。
タークスに殉職は往々にしてある事、と言ってしまえば言い過ぎだろうが
無いことは無いのにこんなにもタークス内部が揺れてしまったのは
実質、ツォンがタークスを支えていたからだろう。

彼を失ってしまったのは神羅にとっても痛手だ。
特に、死亡報告ではなく失踪では何かと問題だ。
まあ奴は出血多量の深手を負っているらしく恐らくは生きてはいないだろうが。
「私に捜索指揮を執らせて下さい」と、肩を震わせて頭を下げたイリーナ。
調査課前主任捜索はタークス内部で依然継続調査中だ。
ふ、と彼を思い出してみる。
そういえば彼には幼い頃から警護してもらっていた。
昔から全然変わりようがない奴でそんな当たり前の事さえ意識してなかった。
彼を失った事はとても残念に思う。今ここで失う駒では無かった。
もしかして父親よりも話をしていたぐらい近しい人物だったのに浮かんでくる感想はそれだけ。
惜しい。
悲しくはない。…仕事の合間に、ああ あいつに頼もう、と手にした書類を見詰めて
あ、あいついなかったんだ、と少し感傷にひたる事はあるけどもやっぱりそれも残念だな、と思うくらいだ。
それは好きな花が枯れて何時の間にかダストシュートに押し込まれていた時と同じ感覚だ。
花が枯れるのを止める事は出来ないし、奴が任務に行くのを止める事も
出来ない。
その花を所望したのは俺だし、あいつを任地に送り込んだのももちろん俺だ。
だけど惜しい。
ただただ惜しい。
花には代わりがごまんとある。あいつの代わりもごまんとある。
…だけど。

なあ ツォン、もっと俺の為に働いてくれるんじゃなかったのか。また下手な嘘をついていたのか?
イリーナがもしツォンを見つけたら彼女には悪いが、奴には責任をとって今度こそきっちりと死んでもらおう。
自分の手を汚す事は厭わないが胸クソ悪いからああツォンお前もう死んでるといいんだけどな。
どちらにしろ死ぬんだから姿を見せて欲しい。普段は完璧なクセに最期に余計な手間をかけさせやがって。
せめて自分の死体の場所くらい化けて教えろ。俺のとこじゃなくてもいい。
イリーナでもタークスの誰かでもいいから。
どうして姿を現さない?あのセフィロスでさえ最期に挨拶くらいはしたぞ。そのくらい礼儀だろ。常識だろ。
…お前、俺の事どう思っていた?
上司として、人間として。好ましかった?疎わしかった?
俺はお前の事嫌いだった。そうやっていつも、いつまでも曖昧なお前が憎い。
でも一方で、俺はそんなお前にどうしようもない程安心してた。
お前の真意なんて知りたくもないし、かけらもお前は見せなかった。
だからお前の死に様って結局こんなものじゃないか?全くお前らしいな。
なあ おい 聞いているのか
それともお前、化けて出るくらいの情も持っていないのか。
そうだとしたらますますお前が好きだよ、大好きだ。
ああ ほんと、お前を失うなんて…




黒光りの拳銃はいつも磨きこまれているのにお前は幻ですら姿を見せてはくれなくて、
いつ引き金を引いていいか分からない俺はせめて奴を呼びつけるつもりで弔砲を撃つ。


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