打ち付ける波 激しく蹴散らして、 


消波ブロック


真上に構える軍事要塞の所為で、何時も黄昏の様相を呈している
アンダー・ジュノンの小さな定食屋で赤毛の男はぼやいていた。
「まずい」
おもちゃのように細切れにしたソーセージを頬杖ついただらしない格好で口に運ぶ。
目は料理など見たくもなさそうにやるせなく暗い窓の外に向けられていた。
向かいに座るスキンヘッドの男は気にした様もなく付け合せの茹で過ぎの豆を口に運んだ。
「こんなスカスカしたソーセージがあるかよ」
ガチャガチャとフォークを鳴らして皿の上の食べ物を転がす。
まずいがその分安い定食屋は意外にも繁盛しており、別段そのマナー違反を咎める者もいない。
「レノ…、黙って食え」
「なあ、ルード。これぜってーパン粉入ったやつだよな?、と。オレ、これ大ッ嫌いだった気がする」
それにこっちの豆だって缶詰で食ったことある、とフォークで無意味に豆を
つっつき始めたレノを無視してルードは黙々と食事を続けた。
よくこんなの食えんなー、と負け惜しみのようにレノは吐くと指先だけで持っていたフォークを離した。
ついでに半分以上料理が残った皿を向かいの男に押しやると、ルードは静かにサングラス越しに睨んできた。
(おー怖)
「なあ、やっぱジュノンにも奴らは潜伏してると思うか?」




この街はやけに猫が多いな、とクラウドは思った。
昼間のこのこと買い物に出歩けば必ずと言っていいほどトタン板には
斑や三毛がいたし、親子連れが道をおっかなびっくり
歩いているところにも出くわした事がある。
こんなにもここには猫がいたのかと記憶を探ってみるも、
人の名前すら覚えていない自分に以前の街の様子など覚えているはずもなく
結局それはうやむやとなってクラウドの頭に残った。
すっきりとした真冬の月は明るく、静かだ。
真夜中に切れてしまった煙草をコンビニで受け取るとさっそく帰り道、封を破る。
一本銜えようと箱に口を近づけると突然小さく声が響いた。
「?」
途端、スッと肩の上を風が吹く。
「!」
振り向くと真っ黒な猫が青緑色の目を不思議そうに見開いて自分を見ていた。
…どうやら柿の木の枝が伸びる塀沿いに飛び降りてきたらしい。
真っ黒な猫の毛は夜に溶けて、ただその魔晄の光のような目だけが輝いていた。
そのまま猫はにゃあとも鳴かずに、無言で自分とは正反対の方向に歩いていってしまった。
(…びっくりした)
なんとなく化かせれたような気分になってクラウドは憮然と坂を昇った。
「あ、ルーファウス?俺」
「いや、用はないんだけどさ」
こんな時間でも起きている相手は、その電話に怒る事もなく「どうした?」と短く言った。
カタカタとパソコンを打っている音が聞こえてくる。
「いや、なんとなく…」
煙草の灰を落とす。
ルーファウスは先ほどの猫のように無言だ。
相変わらずパソコンのキーを打つ音だけが携帯から響いてきていた。





書き途中…思考停止の残骸