―――僕に誰を見ているの?そう言って笑った子供は酷く得意げだった。宿敵の弱点を捉えたような顔で、けれど優しく綺麗に微笑んで。
 重ねたければ重ねればいいと笑う子供は何時かの彼に酷似している。愛した男、愛してくれた彼の英雄に。
 だがそれが何だというのか。笑顔も言葉も所詮は戯れ、偽りばかりのものにどうやって縋れと?教えて貰いたいもんだね、どうやったら信 じ ら れ る の か を 。

「・・・お前に変わりが務められるものか」
 投げやりな言葉に、跪いている子供はその態勢に似つかわしくない傲岸な笑みを刻んで首をかしげた。そうかな?だって貴方は―――
「なんだ」
 子供は何も言わない。変わりに彼は握っていた手をそっと放し、冷えた指先を白皙の頬へと滑らせた。そして与えられる、残酷なまでに優しく生温い口付け。数秒で唇を離した子供は、英雄にしか持ち得なかったはずの瞳孔を細めて冷笑をたたえた。
「もう誰でもいいんでしょ。一人じゃ生きられないくせに」
 激情に駆られるまま振り上げた手は、何時もと同様あっさりと封じ込められた。
 外見の繊細さからは想像もつかない力を有するカダージュは赤子をあやすように他愛無く、けれど過ぎた乱暴さを以ってルーファウスを床に叩きつける。
「かわいそうに」
「・・・・・・」
「でも可愛いよ、ルーファウス」

 ―――教えて貰いたいよ、どうやったらその言葉を信じられるのかを。・・・いっそ何もかもを委ねてしまえば楽になれるのに、どうして自分はこんなにも。

 ちくしょうと呻いた大人に子供は笑うだけだった。