観劇感想&レポート その2 


今回のTERRA NOVAは、観劇するたびに新しい側面や
捕らえ方が見えてくる芝居でした。
23日に見て、改めて思ったのは、TERRA NOVAは「南極」という
物理的な極限への挑戦を描くのと同時に、その白い大地に個々の人の中に
ある心理的な涯てを内包した作品だということです。

その要素が最も色濃く現れていたのが、主人公のスコットでしょう。
この芝居を見るまで、私が抱いていたスコット像は
「国家の威信をかけて、新大陸へ挑戦した探検家」であり、
南極点初到達への希望に燃えた不屈の人物だと思っていました。
しかし、芝居の中から感じたのは、「南極へいくことを望んだ」のではなく、
「南極へ行くことしか望めなかった」スコット、その揺れ動く気持ちと苦悩でした。

表現者や専門家というのは、「その道を選ばざるを得ない」人々であると思います。
キャスリーンへの「いってくれよ、捨ててほしいって」という必死の嘆願や、
「あなたがずっと捜し求めていたものが手に入るものね。行かなくてすむ言い訳が」
「あなたほどあの場所を憎んでいる人間はいない」という彼女の言葉も、
それを裏打ちしているように感じました。

自らの存在の意義のために、「南極への初到達」を望んだスコット、
しかしそれは自分が選んだのではなく、それ以外に路はなかったのだと感じる場面でした。
今井さんの演じるスコットは、そのあたりの苦悩や焦燥を
安定した演技でみせてくれたと思います。
淡々とした冷静さの中に時折覗く、繊細さや脆さ、理想主義は
探検家としてではなく、個人としてのスコットの側面を映していました。




そのスコットとは対象に、南極点への初到達を誰よりも望み、
懸けていたのが横田さんの演じるエヴァンス。
「水兵エヴァンス」とスコットの日記にもあるように、
エヴァンスの南極発到達隊への参加は大抜擢でした。
それだけに、この行軍に懸ける思いは誰よりも熱いもの
だったのでしょう。享年37歳という年齢からも、この好機が
最後のチャンスであったことがうかがえます。

横田さんのエヴァンスはそうした背景をうまく織り込み、
一途でまるで子どものように無邪気な、ある意味単純な懸命さを
持った魅力的な青年でした。
スコットに手の怪我を告白するシーンは、南極点に懸ける二人の違いが
最もよく表れていたように思います。スコットと違い、煩雑な思いが何もなく、
只まっすぐに前を見据える視線、その熱っぽい声と一途さ。
相手の台詞にかぶせるように、緊張感を持って発する言葉と表情に
エヴァンスの決意が漲っていました。
台詞だけでなく全身に伝わってくる演技と熱い思いに、
こちらも瞼が熱くなるような場面でした。

原作では、懇願しているような印象でしたが、この一途で
熱い告白が在ったからこそ、スコットとの南極に懸ける思いの違いが
余計に際立ち、作品に深みが増したように感じました。
また、原作では「静かに」とト書きされていた「返されるのが怖かったんです。…」
からはじまる一連の台詞を、全身で語ったことによって、発狂シーンでの
「スコット、よくも俺を」という言葉が繋がったように思います。



一幕後は一転して会食会の場面。
スコット隊は白のモーニング服(というのかな?)に白エナメル靴で登場。
横田さんの白い礼服と白エナメル靴…。ううむ、なんというか、いろいろな意味で
記録に残しておきたい姿でした(笑)
このシーンは、テラ・ノヴァで唯一、陽の光とあたたかさを感じる場面。
この場面で、隊員たちが息のあった温かい交流が有るからこそ
そのあとのシーンの壮絶さがひときわ深くなるように思います。

横田さんは、後方に向かって手を振ったり、はきなれない靴を
確かめるかのように足元を眺めてみたりと、細かい動作にも
エヴァンスという人物がよく現れていたと思います。
「乾杯」でだれよりも早く水を飲み干す場面や、「どうも、わからんのです」と
困ったようにメニューを眺めるしぐさも妙に微笑ましく映りました。
そして、毎回思うのですが、横田さんの表情は、胸にすとんと落ちるような
鮮やかさがあり、ほんとうに魅力的ですね。
言葉を吸い込むような双眸の表情や、声の質、話しかたにのせた
人物の表現が、より的確になっているように感じました。








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