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◆平塚でひき逃げされ死亡の男性 平塚市の国道1号馬入橋で四月二十五日未明、ひき逃げされ 死亡したのは今春から福祉施設で働き始めたばかりの青年だった。 同い年の婚約者に「いつか自分で福祉施設を作りたい」と語り、来春 結婚する予定だった。その夢を一瞬にして打ち砕いたのは、免許取り 消し処分を受けた上、盗難車を運転していた同じ世代の男だった。平 塚署に道交法違反と業務上過失致死容疑で逮捕されたが、青年の人 柄を慕う多くの人たちにいやすことのできない傷を残した。 祝部(ほうり)悟さん(25)=茅ケ崎市南湖六丁目=。自動車メーカー の技術職として四年間働き、「どうしても人とかかわる仕事がしたい」と 専門学校で学び直した。四月一日から社会福祉法人「進和学園」の 知的障害者社会就労センター(平塚市土屋)の職員になった。 事故が起きたのは同月二十五日午前一時半すぎ。同期十一人の中 で年長の祝部さんは、少しでも早く仕事を覚えようと残業し、ミニバイク で帰宅する途中だった。 無職男(26)が運転した外国車が、前の車を追い越そうとして対向 車線を走行、祝部さんはよけられなかった。現場は追い越し禁止。しか も男は無免許で、盗難車だった。 男は逮捕後、「無免許運転と盗難車の発覚が怖かった」と供述した。 この間、家族や学園の同僚、友人が情報提供を呼びかけるチラシ計 四万枚を作成。一週間、JR平塚、茅ケ崎駅構内などで配り続けた。 「月命日」の五月二十五日。学園主催の追悼式が開かれ、約三百 五十人が祝部さんの思い出をかみしめた。婚約者は「不器用だけど 何ごとも一生懸命だった。将来、自分で福祉施設をつくりたいと夢を 話していた」と涙をこらえ切れない。 父親の滋さん(52)はあいさつで「施設利用者の心に、深い傷を残 してしまった」と気遣うとともに、「まだ犯人への憎しみはわいてこない。 気持ちだけは前へ前へ歩いていこうと思うが、思うようにならない」と 心情を吐露した。 念願の職場で働き始めて一カ月足らず。園生の女性は「笑顔がとても すてきだった。ある日突然、事故に遭って、悲しくて悲しくて…。」と遺影に 語りかけた。同学園の出縄明理事長は「事件の詳しい情報を聞けば聞く ほど、痛切な怒りと悲しみがこみ上げてくる。しかしあなたの命は返ること はない」と述べた。 |
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◆平塚ひき逃げ死亡事件公判 「息子の未来を返して」「二人でもっと幸せになるはずだったのに」− 今年四月、平塚市内で福祉施設職員祝部(ほうり)悟さん=茅ケ崎市南 湖六丁目、当時(25)=をひき逃げし死亡させたなどとして、業務上過失 致死などの罪に問われた住所不定、無職平野善行被告(26)の公判が 二十八日、横浜地裁小田原支部(荒川英明裁判官)で開かれた。被害者 の母(52)と婚約者(26)が出廷。癒されるはずのない心情を涙をにじま せながら吐露した。 起訴状によれば、平野被告は四月二十五日未明、盗んだ乗用車を運 転し、平塚市の国道1号で、追い越しのため対向車線を走行し、直進し てきた祝部さんのオートバイと正面衝突。外傷性くも膜下出血で死亡させ た上、そのまま逃げた。 祝部さんは「人とかかわる仕事がしたい」と転職、四月から福祉施設で 働き始めたばかりで、来春には結婚も控えていた。 公判は、祝部さんの誕生日だった前回に続き、遺族の大切な日と重な った。 意見陳述をした母は二十八日が誕生日。「息子の結婚を楽しみにしてい た。孫を見たかった」。泣き暮らし、人に会うのが苦しく外出もできないと いう母は「車は人を殺せる凶器で、事故は過失ではなく故意。命を奪った ことを一生忘れないで」と、涙で声を震わせながら訴えた。 婚約者の女性は七年前のこの日、祝部さんと出会ったという。証人尋 問で、これまでの数え切れない幸せな思い出や、「早く子供が欲しい」な ど二人で語った夢を打ち明けた。「彼のすべての夢が被告人に奪われ た。彼は父親にもおじいちゃんにもなれない」。大きなショックから立ち直 れない婚約者の証言に、法廷に詰め掛けた関係者からおえつが漏れ た。 怒りと悲しみに暮れる二人が証言する間、平野被告は終始うつむいた ままだった。次回公判は十二月九日に開かれ、結審する予定。 |
平塚市内で昨年四月、福祉職員祝部(ほうり)悟さん=茅ケ崎市南湖 六丁目、当時(25)=をひき逃げし死亡させたとして、業務上過失と道交 法違反などの罪に問われた住所不定、無職平野善行被告(26)の判決 公判が二十日、横浜地裁小田原支部で開かれた。荒川英明裁判官は「飲 酒し盗んだ車で追い越しをするなど過失の態様極めて悪く、二十五歳で命 を奪われた被害者の無念さは察するに余りある」などとして、懲役六年(求 刑同九年)を言い渡した。 判決によると、平野被告は昨年四月二十五日午前一時四十分ごろ、盗 んだ乗用車を運転し、平塚市馬入の国道1号馬入橋で、追い越しのため 対向車線を走行。直進してきた祝部さんのオートバイと正面衝突して外傷 性くも膜下出血で死亡させたまま、逃走した。 また同月に厚木市内で乗用車を盗むなど、計三台の乗用車など(時価 七百三十万円相当)を盗んだ。 |
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量刑難しく 「法の下の平等」重視 判決に肩落とす遺族ら 「殺人でも業務上過失致死でも、遺族の気持ちに変わりはない」。荒川英明 裁判官は、被害者遺族の感情をそう酌みながらも、平野善行被告に懲役6年 の判決を言い渡した。悪質な交通死亡事故への厳罰化傾向がある中、これま での業務上過失致死事件との「法の下の平等」を重視した判決に、遺族は「執 行猶予中に違法行為を繰り返した末の事件なのに。軽すぎる」と悔しさをにじま せた。(平塚支局・佐藤 奇平) 傍聴席には、祝部さんの遺影を抱いた父・滋さん(五三)ら遺族と婚約者の女 性、勤務していた福祉施設の関係者らが詰めかけた。 判決言い渡し後の説諭で、荒川裁判官は「刑が多いか少ないか、議論はあ る」とした上で、「遺族や関係者にとっては、被害者が亡くなったことが一番大 事。殺人でも業務上過失致死罪でも危険運転致死罪でも、遺族の気持ちに変 わりはない」と強調。 「ずっと果たさなければならない償いがある」と、刑期を終えても人一人の命を 奪った「責任」は消えないと諭した。 判決直前に「長い年月をかけて償いたい」との上申書を提出、刑務所出所後 の仕事先も見つけたという平野被告は、裁判官の説諭に反省した様子でうなず いていた。 だが、遺族感情に配慮しながらも、他の業務上過失致死事件との均衡などを 考慮した判決は、遺族には「社会情勢にそぐわない」と映った。 平野被告は事件当時、酒に酔っていた上に、禁止されている追い越しをして 事故を起こした。遺影を携えて傍聴し、「危険運転致死罪でもおかしくない」と訴 える父・滋さんは、「言葉では自分たちの気持ちを酌んでくれたが、判決の相場 といわれる求刑の八掛け≠ノ及ばない。前例を引き継いだだけ」と厳しい。 「息子も聞いていただろうが、残念だ」と肩を落とした。 機運が高まる被害者保護と、加害者への量刑はどうあるべきか。今回の判決 は、その難しさをあらためて浮き彫りにした。 |
被害者はいま 動き出した基本法 ■2□ 刑事裁判へ参加求め 蚊帳の外 「『何でこんな事故を起こしたのよ』と被告に直接聞きたかった」−。茅ヶ崎市南湖で暮らす祝部滋さん(55)美佐子さん(54)夫妻は2002年4月、長男悟さん=当時(25)=をひき逃げ事件で亡くした。飲酒し無免許で盗難車のハンドルを握った犯人は、福祉施設の運営を夢見た長男と同い年。覚せい剤取締法違反罪で執行猶予中に事件を起こした。業務上過失致死罪などに問われ、初公判に現れた被告は真っ赤な靴下をはいていた。夫妻は欠かさず傍聴を続けたが、反省をしているようには見えなかった。裁判を通じ美佐子さんは「自分達はいつも制度の枠外にいる」と強く感じた。滋さんも「求刑九年に対し、判決は六年。人一人を殺して信じられない。本来なら(より重い罰の)危険運転致死罪も適用できた。納得できない」と唇をかむ。 |