仏蘭西 ・ パラレル 「 森の中 」
「まずいな、迷ったのかもしれん。」
「………え!」
とっくに城が見えてきてもいいはずが、いくら進んでも森は深くなるばかりなのだ。
ひんやりした夕暮れの空気が森の木々の間を縫って二人を包み始めている。
「これ以上歩き回るのは危険だ、もう足元も見えなくなってきた。 ここで夜を明かして朝を待とう。」
いったん暗くなり始めると森の様子は一変する。 どこかでホウホウと鳴いているのはフクロウだ。
木のうろの奥でぼぅっと光っているのはツキヨタケに違いない。 蒼ざめたカミュがミロとの距離を心持ち縮めた。
「ここならいいだろう、ほら、マントを敷いたからここに来て。」
「ん………あの、熊とか狼とかが襲ってきたりはしないだろうか?」
「え?
このあたりにそんなのはいないさ、安心して。
でも………」
夕闇の中で眉をひそめたミロが意味ありげにカミュを見た。
なんだろう………?
もしかして近くの洞窟に吸血コウモリが住んでいて夜になると獲物を求めて飛び回るとか??
それとも………まさか、本で読んだことのあるドラゴンの縄張りが近いとかっ?
カミュの頭の中で、めらめらと赤い炎を吐く恐ろしいドラゴンが跳梁跋扈
(ちょうりょうばっこ) する。
そんな恐ろしいものが出てきたら、いくら剣の得意なミロでもかなわないかもしれない。
「でも………なに?」
勇気を奮い起こして聞いてみた。 搭の上の姫君ではあるまいし、男たるもの夜の森を怖がっているわけにはいかないのだ。
「お前を襲うのは熊や狼じゃなくて………」
カミュが息を止めた。 ミロがなにを言っても怖がる素振りなど見せることはできない。
「俺だったりして♪」
「………え?………あっ、ミロ!」
抱きすくめられたカミュが息を飲んだ。
マントの上に押し倒されたかと思うとあっという間に唇を奪われている。
「ん………ミ……ロ…」
襟元のボタンが一つ二つとはずされて、滑り込んできた長い指がカミュを震えさせた。
「あ………いや!
こんなところで………人に……人に見られるかもしれぬ!」
「大丈夫さ………誰にも見られはしない………」
突然のけしからぬ振る舞いに気も動転したカミュが抗議の声を上げてもミロは気にもしない。 慣れた動作がカミュを陶酔の淵に追い込んでゆく。
「今夜は月もない。
たとえ誰かがそばを通りかかっても気が付かないだろうさ♪」
「でも………」
しかし、その誰かがランプを持っていたら?というカミュのもっともな疑問はついに発せられることはなく、あとはもう甘い喘ぎが闇をつたうばかりなのだ。
「カミュ………カミュ………………こんなにこんなに愛してる……」
秘めやかな溜め息がそれに応えていった。
ほんの冗談です………。
「いや、じつに望ましいオプショナルツアーだな、気に入ったね♪」
「ただし最少催行人数は3名だ。」
「……え?」
「バザンにも来てもらう。」
「おいっ、それじゃ何もできないだろうがっ!」
「いいから、いいから♪」