雲が切れたとき、まぶしいほどの月の光がカミュを照らし、ミロは思わず息をのんだ。
白い肌だとは思っていたが、半ば脱ぎ落とした浴衣からのぞく肩の白さに目を奪われる。
その魅力に抗しかねたミロが耳元から肩にかけてそっと唇を落としてゆくと、かすかに
あえいだカミュが身をよじり、熱い吐息を切れ切れに洩らす。

「 どうした……? 俺が強く抱きすぎるから、息苦しい? それとも………」
ミロの目が、解けかけた臙脂の帯に留まった。 ほんの申し訳程度にまとわり付いているそれを
緩めたのは、いったいどちらだったろう。
「 それとも、帯を解いて欲しい、と言えなくて悶えてるの?」
「 ………そんな……そんなこと…………」
「 ふふふ………無理しなくていいのに………」
くすりと笑うと、形のよい耳朶を唇で捉えて口中でまろばせてやる。
「 あ………ミロ………ああ……」
感極まったときに首を振るのがカミュの癖だが、耳朶を捉えられていてはそれもならずに身を固く
するしかないのだった。
やがて名残惜しげに唇を離すと、濃い朱に染まった耳朶が濡れ濡れと光り、まるでカミュのうちに秘めた
思いを代弁しているようにも思われるのだ。
「 帯……解いてもいい?」
なめらかな頬を隠している髪をかきやり、耳に触れんばかりにしてささやくと、はっとしたように顔を
そむけたカミュがみるみるうちに頬を染めてゆく。
「 ………解くぜ」
わずかに動いた唇を読み取ったミロの手が伸び、やがて白い素肌が惜しげもなく月の光に晒された。
降りそそぐ白銀の光とミロの視線を痛いほどに感じたカミュが身を震わせ、紅い唇をわななかせる。
「 カミュ………俺のものになってくれる?」
蒼い瞳を見上げたカミュの腕が伸ばされ、ミロの首に絡みついてきた。
「 抱いて………花の香りの中で私を抱いて………」
花よりも甘い吐息が首筋をかすめ、見下ろすミロの心をいやがうえにも高ぶらせてゆく。
湯上がりのほてりが残る素肌を思うがままの色に染めれば、抑えかねてこぼれる歓びの声が耳を
楽しませる。
金木犀の香りが二人を酔わせ、銀色の月の光に、その感覚は研ぎ澄まされていくのだった。
 
    『 カミュ……今宵、もう一度そなたを我が物に………』

ミロに抱かれて目を閉じていたカミュがびくりと身を震わせた。
「 ……どうした?」
「 今……昭王の声が聞こえたような気がした………」
ミロの手の力が強まった。
「 ……で……なんと?」
「 もう一度、私を我が物にする、と。……ミロ……」
「 大丈夫だ。」
ミロの微笑がカミュを包む。
「 昭王の想いは、この俺の中に宿っている。 そう言って当然だ。 ずっと待っていたんだからな。」
「 それなら……二人分、私を抱いて……………私も二人分、その想いにこたえよう。」

金木犀の香りがしのびやかなささやきを包み、あまやかな気配がひそやかに満ちてゆく。
やがて空の半ばを過ぎた月が、恋人たちの姿を闇に隠していった。