「 ああ、大事なことを忘れていた。」
                         「 ……ん?……なに? カミュ……もっとこっちに来いよ」
                         「 北海道では金木犀という木は自生しない。 冬の気温が低すぎるようだ。」
                         「 そんなことより、もう一度、お前を………なにっっ!!!!」
                         「 残念だがほんとうだ。」
                         ミロは唖然とした。
                         「 おいっ! それはないだろう???いったいどうするんだっ?」
                         「 私も困っている。 時代考証の責任者としてはこの誤謬は看過できぬからな。」
                         「 副読本の金木犀を帳消しにするなんて、俺は断じて許さんぞっ!冗談じゃないぜっ!!!!
                          お前が真面目にそんなこと言わなきゃ、誰も気がつかなかったんじゃないのか?」
                         「 そんなことをいわれても………」
                         カミュが目を伏せてしまい、あわてたミロが優しく口付ける。
                         「すまん、お前のせいじゃなかったのに………わるかった……気にしないでくれ……」
                         「ミロ…………」

                         「俺はあの木の香りが大好きだし、あの甘い夜を取り消しにしたくはないぜ………
                          ……それじゃ、こうしよう、カミュ。
                          日本にいるうちに、なんとかして金木犀の咲いている土地に行けばいい。
                          きっと間もなく咲くから、あの話ができたんだと思うからな。
                          その土地で、もう一度、俺がお前を抱く!
                          それで、一件落着だ、あの話を俺たちで現実にしようじゃないか。」
                           
                         それは論理的な解決方法だろうか、とカミュは考えた。

                            どこにも論理性はない。
                            しかし、代案はなにも見出せないではないか………

                         心配そうにミロが見つめている。
                         「わかった、それでいいだろう。」
                         「よかった、きっとなんとかなるぜ。
                          どんな夢も信じて貫けば、現実のものになるっていうからな♪」
                         カミュが目をしばたたかせた。
                         「ミロ、その台詞……」
                         「ん? なに?」
                         「いや、なんでもない」
                         ミロの手が緑の小瓶に伸ばされる。
                         その手に白い手が重ねられた。
                         「ミロ……今宵は………お前も………」
                         青い瞳が驚いたように見開かれ、それから笑いが広がった。
                         「なるほど、それはいい。 悔しいから俺たちで花を咲かせるか。」
                         「あ…でも、また起きたときに香りが………」
                         「かまうことはない、俺が丁寧に洗ってやるよ、俺のことも洗ってくれる??」
                         「…………ばかもの………」

                         それはとても小さい声で、ミロを嬉しくさせたのだった。




                     「