双魚宮でのにぎやかなクリスマスパーティーを終わった二人は、宝瓶宮を通り過ぎ天蠍宮まで降りてきた。みんなとの付き合いは大切だが、やはり聖夜の締めくくりは二人だけで、というのが毎年のことなのである。
寝室にいざなわれたカミュが目をみはる。
「これは……!」
「どうだ! ちょっとしたものだろう。」
ミロが得意げにするのも無理はない。 先日までとはうってかわり、インテリアが青で統一されている。
ターコイズブルーやペルシャンブルーのカーテンや敷物類が美しく飾られ、特にベッドカバーの冴えた青が目をひいた。
「いつの間に、こんなことを?」
「ふふふ、地道に揃えたぜ、かなり時間がかかったがな。 このごろお前のところにばかり行っていたのはそのせいだ。」
高窓からの月の光が床の蒼とベッドの青に半々に落ち、鮮やかな夜を予感させる。
やさしく抱き寄せられたカミュが目を閉じた。

「カミュ………もっとこっちへ……」
「あ………」
ミロの目論見通り、白い肌は青いキャンバスによく映える。
そっと唇を落としてゆくと、艶やかな髪が、さら、としのびやかな音をたててゆるやかに渦を巻く。 目の前の白と青と黒の色彩の対比にミロは賛嘆の色を隠せない。 いとしさが募り、このままいつまでもともに、と思うのだ。
「カミュ………俺と一緒で幸せか?」
「なにを今さら………わかりきったことを……」
しなやかな両手がミロの金の髪にやさしく触れる。 いとおしげに、そして懐かしく、白い指が金の流れを梳いてゆく。
「もっと愛して……もっと見つめて……お前の髪も声も……私だけの物にしたいから……」

   もうとっくに、そうなっているのに………俺のカミュ……

「髪と声だけじゃだめだぜ……俺の身体も心も、みんなお前にやろう。 そのかわり……」
「わかっている……私のすべてをお前に……この髪も声も……」
「それから身体も心も、だ………カミュ……」
力強い腕に抱きしめられたカミュが思わず息をとめた。
「あ…………ミ…ロ………」
「……あ、苦しかった? すまん、つい力が……お前があんまりいとしくて。」
こんどはやさしく抱き直したミロが、甘い微笑でカミュを包む。

   ずっとこうしていられたら、どんなにかよいものを……
   このまま朝が来なければ………この青い世界でミロと二人で過ごせたら……

「ミロ……私のことが好きか?」
「もちろん! こんなに、こんなに好きだ……!」
「あ………」
「ここも、ここも、ここも……」
「わかった……!よくわかったから……ミロ………頼むから……!」
「頼むから、なに?」
手をとめたミロがカミュの瞳を覗き込む。

   ほんとにきれいで、俺は吸い込まれてしまいそうだよ……俺のカミュ……

「なにって……あの……」
「ふふふっ、好きだよ、お前のことがとても好きだ♪ 海みたいにいつも俺を包んでいてくれ。」
「私が海の蒼なら、それはお前の空の青さを映しているからだ。」
「じゃあ、俺はお前に溶け込んでいくぜ、かまわない?」
「深く……もっと深く……お前を抱きこんで離さぬぞ。 それでもよいか?」
「願ったり叶ったりだ。 月の光が消えぬ前に、お前をもっと蒼く染めてやるよ。」
頬を染めて小さく頷いたカミュにミロがやさしく口付ける。 ひめやかに甘やかに、いとおしさの限りをこめて。
やがて月も傾き、満ち足りた闇がおとずれる。
もはや恋人たちの声は聞こえない。 そのつつましやかな気配に深更の月も遠慮がちに身を隠していった。