「 愛のかたち 」              


「俺たちって、最高だと思わないか?」
「最高とは、なにがだ?」
「ふふふ、決まってるだろう、愛の・か・た・ち。」
「しかし、愛とは抽象的なものであって、具象化は…あっ…!」
そんなつもりはなかったカミュの肩をとらえたミロが、柔らかな唇の感触を確かめるなどたやすいことなのだ。
「……ん…」
一瞬の瞠目ののちに閉じられたまぶたが震え、その数瞬のちにはミロの手が浴衣の帯を解いている。
畳の上に落ちた帯には目もくれず、もの慣れた手が襟にかかり、すっと押し広げたかと思うと白いまろやかな肩が露わにされた。
「あ………ミロ……」
ようやく解放された唇が言葉を紡ごうとしたとき、
「愛は抽象かもしれないが、愛のかたちっていうのは目に見えるんだぜ。」
そう言ったミロの唇が早くも首筋から胸へと伝い降り、たおやかな身体に戦慄が走る。 予期する間もなく、人知れず色づいていた胸の蕾を捉えられては、もうカミュには悶えることしかできぬのだ。 続けざまにくだされる甘い刺激からのがれようとしたカミュが背をそらせばそらすほど、その若い蕾をミロの好餌とするようなものなのだが、そんなことに気がつく余裕などあるはずもない。 ゆるゆると首を振りつつ恥じらうカミュの匂いやかな肌が黄金の髪にくすぐられて薄紅に染まってゆくのもミロを歓ばせていた。
「俺たちで、愛を具象化してやろうじゃないか。」
「ミロ……ミロ………いや…」
頬を染めて洩らす吐息の合間にかろうじて哀願するのだが、ミロがそんな言葉を聞くはずもない。 唇をのがれていた残る蕾もたちまちミロの指に探り当てられ、双方に与えられる甘美な感覚がカミュの身体の奥底に潜んでいた想いを引き出すのはわけもないのだ。
けっして口には出せぬ狂おしい想いに囚われていたカミュが気付いたときには、すでに浴衣も脱ぎ落とされて、まとうもののない背をミロの両手がかきいだく。
「今夜はどんなふうに愛して欲しい? お前の好きなようにしてやるぜ。」
「そんな……私には…そんなことは云えぬ………」
「いいんだよ……自分の想いを解き放って…………俺だけに聞かせて……どうして欲しい?」
押し付けられた胸から熱い鼓動が伝わり、カミュのためらいも羞恥も溶かしさろうとしているのではなかったか。 たとえようもなくやさしい口付けが耳朶へ喉へ唇へ重ねられれば、いかにカミュといえども、ミロを求めぬわけにはいかぬのだ。
「あ……そんな………ミロ…私は……」
口ではそう言うものの、かすかに残されていたわずかばかりの理性は、早くもミロの的確な愛撫に懐柔され、春の日の雪のように姿を消そうとしているのだった。
「早く……カミュ……どうして欲しいか言って………そんなに長くは待てないから…」
耳元に甘い言葉を注ぎ込まれたカミュは、自らの内に渦巻く想いを扱いかねて浅い喘ぎを洩らすのだ。 えもいわれぬしなやかな肌がミロの心を魅了し、その身にまとわりつく艶やかな髪はミロを誘ってやむことがない。
抱きすくめて想いのままに愛したい欲求をかろうじて抑えているミロの耳にやがてかすかに聞こえてきたのは、すべてを振り捨てたカミュの甘い囁きだった。
「私を好きにしていいから………私をお前のものにして………頼むから………私のミロ……」

   それだけ聞けば十分だ……思う存分可愛がってやろう
   朝までには、もっとせがんでもらおうか………

「お前の望みを叶えよう……抱き尽して愛し尽くして、すべてを俺のものにしてやろう……」
やわらかいしとねの上で、このうえなくやさしい愛撫が与えられ、ひそやかな歓びに打ち震えるたおやかな肢体がミロの心をからめとる。
甘い吐息がミロの想いに溶け込み、カミュをいつくしむ手にさらに大胆さを与えてゆけば、それに呼応したカミュの喘ぎが徐々に高まり、長く乱れた髪がうちに秘めた想いをそのままに映し出しているのではなかったか。
「ああ……ミロ……頼むから…………もっと………もっと私を……ミロ……」
「カミュ……俺のカミュ………こんなに、こんなに愛している………」

人には見せぬ秘め事が闇の色に溶けていった。