先にミロの寝たるを見て読める 傍らの 宵夢の寝に この心 忍ぶ憶いも 千の言葉も 聞こえたんだよね… 寝たふりを してたら君が囁いた 小さな声で 「 好き 」 の二文字 |
歌 :小雪丸さま
「水仙の香りが好きだ。」
そう言ったカミュのために、ミロは美穂に頼んで、二月中は離れに水仙を飾ってもらうことにした。
玄関にも床の間にも洗面室にも、たっぷりの水仙が生けられているこの季節は清々しい香気が満ちて、まことにこころよい。
目覚めるたびに、外から戻ってきて玄関の戸を開けるたびに、水仙の清新な気が二人を喜ばせるのだ。
その水仙の香りが満ちた部屋にはもう動くものはない。 枕元には大事な夜を彩ろうとミロが置いた水仙の束がすがしい香気を放ち、行灯のほのかな灯りがやわらかく部屋を照らしていた。 さきほどまでカミュを愛し尽くしてやむことのなかったミロもすでに静かな寝息を立てている。
その傍らに伏しているカミュは、しかし、薄闇の中で目を開けていた。
ミロ………そんなに私の言葉を聞きたいか……?
いままでにも何度となく云われた言葉が今夜はカミュを眠らせはしないのだ。
「カミュ……お前の方から好きだと言って! 俺に聞かれたから返事をするんじゃ、まだだめだ!
お前から先に言って欲しい!」
今夜のミロは、いつになく執拗にそれにこだわった。
「俺が千回言っても、お前から先に言うことは一度くらいしかないじゃないか!
どうして先に言ってくれない? なぜ、心の中からその言葉が湧いてこない?」
「あ……ミロ…!」
悔しそうに同じ不満を繰り返すミロは、手荒いことなどはしないかわりにいつまでもカミュを手放なそうとせず、夜毎の甘い罠から逃がしてはくれないのだ。
丹念に過ぎる甘い仕草がカミュを惑乱させ、なんとかしてのがれようとした手が畳の上に置かれた水仙の束を散らす。
「あ…」
ひときわ強い香りが立ち込めてそれがミロの感情をなだめたのかもしれなかった。
「まあいい……俺が何度言っても言うことを聞いてくれないんだからな……ほんとにお前は強情で……」
「ミロ……」
しばらくはやさしい口付けをそこここにくれていたミロも、やがて静かになりカミュの傍らで寝入ったようだ。
嵐に翻弄されていたカミュはいつもならすぐに後を追うのだが、今日に限って寝付けない。
水仙の清冽な香気が精神に作用しているのか、それともミロの言葉が気にかかってのことか。
強情だから言わないのではない……それは……言ったほうがミロが喜ぶのはわかっている……
でも、抱かれる前には言いづらい……抱かれたときにはミロが先に言っている…
ミロのことは好きだけれど、そんなにすぐには口から出ない
ミロにしては珍しく今夜は少し機嫌が悪かったようで、酔いにまかせた口調で、
「もしかしたら……俺に責められたくて、わざと強情を張っているんじゃないのか…?そっちがそうなら、もっと責めてやってもいいんだぜ……」
そんなことまで言ったのだ。
違う……違うのに……けっしてそんなことはないのに………
思いがけないことを云われて困ってしまったカミュが否定しようとした時にはもう唇を奪われており、ついになにも云えずに過ぎてしまったのが悔やまれる。
言葉の弾みでついそんなことを言ったミロがもう忘れているだろうことには、思い及ばぬカミュなのだった。
その場限りの睦言も、つい真剣に聞いてしまう性格なのである。
今からでも言ってみようか………
間に合わないだろうけれど………届かないとは思うけれど………
そっと上体を起こして眠るミロの耳元に口寄せた。
「好き……」
言ってしまってほっとしたとたん、さっと伸びてきた腕にぐいと引き寄せられる。
あ……
「俺も大好きだ.。」
満面に笑みを浮かべたミロにつかまえられたカミュが真っ赤になった。
水仙の夜はまだ終わらない。
これは 「 花籠の檻 」 の管理人、小雪丸さん作の短歌につけた話です。
「コラボしましょ♪」 計画がやっと実現!
この世で一番好きな花の香りは梅・水仙・金木犀。
金木犀の話は実は十篇もあるのです、先日数えて驚きました。
梅はそれに比べて少ないけれど、見聞録の
「 節分 」 にありますね。
水仙はこれが初めて。
それもそのはず、水仙の壁紙が初めて出たんですもの.
※ 上記の短歌の詞書 (
ことばがき ) は私がつけました。
正調な歌のカミュ様にはそれらしく。
俵ミロ様 ( 笑 ) にはそれらしく。