みかきもり 衛士のたく火の夜は燃え  昼は消えつつものをこそ思へ

                                        百人一首より    大中臣 能宣 ( おおなかとみのよしのぶ )

     【 歌の大意 】     皇居の御門を守る衛士 (えじ) の焚くかがり火が、夜毎に燃えて昼は消えるように、
                  私も、夜は恋の炎が燃え上がり、昼は身も心も消え入るほど切ない恋の物思いをしています。


カミュは実に物堅い。
昼間のうちは、俺がちょっとその気になって からかい半分に色めいたことを言うと、たちまち気分を害されるらしく、読んでいた本から目を上げもせずに、背をそびやかし眉をひそめてページをめくる。
こっちが負けじとさらに艶めいた話を持ちかければ、氷のような視線で俺の唇を凍らせる。
それは確かに、昼日中にそんなことを言葉に出すほうに問題があるとは思うのだが、俺のカミュがすぐそこにいるのに、昨夜惜しげもなく見せてくれた情景を思い浮かべるな、というほうが無理だろう。
もちろんたまには、俺の誘いに乗ってくれることもあるが、とても魚心あれば水心というわけにはいかない。
硬い鎧に覆われた心の隙をうまく衝いてやわらかく抱かせてもらっても、すぐには乗り切れないらしく、困ったように眉をひそめて首を振る。 うまくこっちのペースに持ち込もうと、甘い言葉と熱いキスを雨のように降りそそぎ、カミュの弱いところをうまいタイミングでとらえてやると、やっと心も身体もほぐれてくるらしく、俺の腕に身を任せてくれる。
ここまで持ち込むにもかなり神経を使い、慣れているとはいえ相当に手がかかるのだ。
それならば、昼間は控えておいて夜を待てばよいのでは?と言われるかもしれないが、夜まで待つのでは当たり前すぎてつまらない。
カミュが眉をひそめて拒もうとする昼間に手練手管で思いのままに扱ってやるのが愉しみなのだから。

もちろん、この過程を楽しむのも恋の醍醐味だが、たまにはカミュから水を向けてくれないかと思わないものでもない。
以前それに似たことを冗談交じりで言ってみたら、冷たい目線が飛んできて、首をすくめたものだ。
そんなカミュも、後ろから抱かれるのには妙に弱くて、たいていは俺の目的は達せられる。 そっと近付いてやさしく抱きしめながら白いうなじに口付けていけば、たちまち崩れそうになり俺に身体を支えられながら喘ぐしかなくなるのが常なのだが、この頃はさすがに用心するようになり、俺に後ろを取られまいと微妙に位置を変えながら話をするようになっている。
ちょっと困りもするのだが、それで引っ込んでいては黄金のスコーピオンの名が泣こうというものだ。 カミュがそう来るのなら、俺はハンティングをするつもりで虚々実々の駆け引きを楽しみながら、カミュの後ろを取ろうと今日も工夫を凝らすのだ。


ミロには困っている。
人には節度というものがある筈なのだが、まだ明るいうちから何かというと私に触れようとする。
そういうことは夜に願いたい、と言うと 「サソリは夜行性だが、俺は人間だから昼間も活動するんだよ」 などと一見 論理的なことを言いながら、一向に気にした風もなく手を伸ばしてくるのには本当に困ってしまうのだ。
このごろではついに私が後ろから抱かれることに弱いのを発見されてしまい、窮地に追いこまれることが多くなってきた。
あっと思ったときには、ミロの手が後ろから回され、私の羞恥をかきたてる。
そうなると私は惑乱するばかりで、ミロのいいようにされてしまうのだ。
それは……私もミロが嫌いというわけではないのだから、時と場所が整えばそれなりに応じもしようが、ミロはどうにも私を困らせるのが好きなようで、やたら昼行性の性癖を発揮する。
「ミロ……ほんとに困るから……」
「お前が困るなら、おれも一緒に困ってやるよ……」
とても、困らせている人間の言う言葉とは思えぬのだが、そんなことを考えているうちにもミロの手や唇が私の理性を痺れさせてゆく。
「……ああ……ミロ………そんなことは……やめて…」
「そう言われちゃ、ますますやめられないな……ほら……こんなのはどう?」
論理性のかけらもない台詞が耳元でささやかれて、私はますます深みにはまってしまうのだ。
ミロに言わせれば、私が 「 よせ 」 と言っているうちはまだどうなるかわからないのだが、「 やめて 」 と言い始めると、OKなのだそうだ。
なにがOKなのかと反論したくはあるのだが、そんなことを言おうものならすぐさま 「 わからないなら教えてやるぜ」 などと言って、もっと深みにはまるので、言い返すことさえできないのが口惜しいのだ。



           
カミュ様、ほんとは昼間も抱かれたいのではないかしら?
           でも理性と常識がそれを拒むんですね
           そしてその間隙を衝こうとするミロ様との闘いになる
           たいていはミロ様が勝ち、たまに負けると悔しくて雪辱を誓う、その繰り返し。

           標題の短歌、いかにも闇の中でちらちらと燃え上がる炎が見えるようです。
           闇の中の炎と、明滅する恋の火と。
           妖しく美しい情景です。