飲めと言われて 素直に飲んだ 肩を抱かれて その気になった |
「
浪花節だよ人生は 」 より 作詞 藤田まさと
「もう少し………いいだろう、カミュ?」
「ん………少しなら……」
「そうそう、そのくらいは大丈夫だから。 俺さ……お前とこうして飲みたかったんだよ。
この酒はアルコール度が低いから、お前でも何杯でもいけると思ってさ。」
今夜のグラスは洒落た江戸切子である。冴えた青の美しさに一目惚れしたミロが注文していた品が、今日届いたのだ。
欧州にもカットグラスはあるが、カットの切れ味が違うのである。 いいグラスで飲んでこそ、酒の味が生きるというものなのだ。
「今度は私から注ごう。」
「嬉しいね。」
カミュの白い指が、揃いのデカンタの細首を持つと、首筋がぞくりとするではないか。
「ほんとにきれいだな!」
「うむ、実に見事な職人技だ、お前の言うとおり、江戸切子は素晴らしい!」
「いや、そうじゃなくて、俺の云ってるのはお前のことだよ 。 お前の指のこと。」
「………え?」
ミロのグラスに触れていたデカンタが一瞬震え、ちりんと音を立てる。
「もう少し飲んで……カミュ……」
頬を染めたカミュの手からデカンタをやさしく取ったミロが、グラスの中身を口に含むと、まろやかな肩を抱き寄せた。
「あ………」
そのまま口付けて甘露を流し込んでゆけば、あとはもう酔いがカミュを染めてゆく。
「ミロ…………」
全身をゆっくりと浸してゆくけだるさをミロが受けとめてくれることを、すでにカミュは予期しているのだ。
「……いい? カミュ………」
小さく頷き、ミロに身体をあずけたカミュからの口付けが、今度はミロに、えもいわれぬ甘やかな香りを流し込んでいく。
「甘い夢を見せてやろう……俺のカミュ……」
手にしていたグラスをよく見もせぬままテーブルに置いたとき、先に置いてあったカミュのグラスに触れて、もう一度ちりんと音が鳴った。