「 瑠璃と玻璃 」


ミロは溜め息をついた。
毎晩のことなのだが、どうしてこんなに魅せられるのだろう。

「カミュ……もう少し いいか?」
月の昇る頃から思いのままに扱われたカミュには、もはや抱き返す力もないらしいのだが、ミロの想いはいまだ尽きることがない。
薄紅の色を散らした肌にふたたび口付けていくと、半ば開いた唇からしのびやかに漏れるのはやはり艶めいた歓びの声なのだ。
「もっと聞かせて……カミュ…」
「あ……」
それに力を得たミロが思い切って手を進めてゆくと、さすがに耐え切れなくなったのか、弱々しく喘ぎながらその手を押しのけようとするのだが、それがかえってミロの想いに火を注ぐことになる。
「もう………もう耐えられぬ……ミロ…」
熱い吐息の合間に切れ切れに呟くその声さえも、ミロにはなんともこころよい。
「まだ……まだだ…カミュ………もう少し俺と一緒に………」
「あ……いや………」
この世の悦楽を欲しいままにしているミロには、いまここでカミュを手放す気など一向にないのだ。
甘く切ない、悲鳴にも似た吐息が、闇を震わせていった。

「カミュ…カミュ………気がついた?」
自分を呼ぶ遠慮がちな声に目を開けたカミュが最初に見たものは、金糸をよりかけたようなミロの髪だった。
高窓からの月の光を浴びて、透き通るような金の輝きを帯びている。
「あ……」
きらめく瑠璃色の目になにもかも見られていることを悟ったカミュが頬を羞恥の色に染めて目をそらす。
「きれいだ……!」
「……え?」
「月の光の中のお前は本当にきれいだ……肌は処女地の雪のようで、頬は咲き初めた薔薇色で、その唇は珊瑚の赤で……」
あまりの賛辞に答えることもできず目を伏せるカミュにそっと口付けてゆくと、たおやかな身体が一瞬はねた。
その感触を愉しみながらそのまま包み込むようにして抱きしめてゆくと、少しためらいつつもミロの背に手を回して引きつけるようにするのがどうにも嬉しいものなのだ。
「お前も……」
「ん? なに……?」
「月に照らされた髪が金の光を散らしている……とても……きれいに見える…」
「カミュ………もっと………もっと言って! 俺にお前の言葉を聞かせて。」
心躍らせたミロの口付けが頬に唇に喉にふりそそぎ、カミュを当惑させた。
「あの………ミロ……それでは…なにも言えぬ…」
喉から胸元へ降りてきた唇が一瞬静止したあと、黄金の髪を揺らしたミロがくすっと笑う。
「それじゃ早く言って。 でないと、ここに…」
「あっ…!」
「ふふふ…で、どうなの? 俺はどう見える?」
ミロの笑顔が迫ってきて、それだけでもカミュをときめかせるのに十分なのだが、見惚れている間にミロの手が伸びてきておおいに慌てさせられるのだ。
「ミロ…!わかったから、言うから!」
「わかればいいんだよ。 で、お前の目には俺はどんなふうに見えてるの?」
「あの……お前の髪が羨ましい……輝くような金髪に私はいつも見惚れている。 出会った最初の日からずっと憧れていた。」
「ほんとに? 今までずっと?」
瑠璃色の目が喜びにきらめき、カミュを抱く双の手に力がこもる。
「それから? 他にはないの?」
「それから……あの…私を見る目にどきどきしている……いつも…その……私を欲しているのが感じられて……それで…私も…」
「されたくなっちゃうとか?」
「ミロ!」
くすくす笑ったミロがキスの雨を降らせ、それ以上カミュは何も言えなくなった。
月の光がミロの髪をいっそう輝かせ、そのまぶしさにカミュは目を閉じる。
「お前もほんとにきれいだよ……まるで玻璃のように透き通って繊細で………見るたびに美しさが増してゆく………銀の月の光がこの肌にいっそうの光を添えて俺に、抱いて、と呼びかける………今も、これからもずっと………」
「あ……ミロ………」
真摯なまなざしの前に身をすくませるカミュは、その白い肌を羞恥の色に染め、余すところなく銀の光を浴びた身を恥じらって息をひそめるしかないのだ。

   俺は金で、お前は銀だ……世の中にこんなに美しい取り合わせはないぜ
   知っているのが月だけとは、いかにも惜しい……

「恥ずかしければ、俺の身体でお前を包んでやろう……ほら、こんなふうに……」
そのあと、珊瑚の唇から漏れるのは甘い溜め息ばかりである。
やがて月も恥じらって姿を隠し、濃密な瑠璃色の闇が二人を包んでいった。





           
収蔵庫の 「 いろはガルタ 」 ・ 「 瑠璃も玻璃も照らせば光る 」 から黄表紙に出世です。
              
              「ほぅ! こんなところでカミュを抱けばムードは満点、カミュも満足というものだ!」
              「だっ、誰がっ!! 勝手にそんなことを決めないでもらおう!」
              「あれ? お前、この壁紙じゃ不満なの? ああ、もっと扇情的なのがいいのか?ふうん……」
              「ミロ……私は…!」
              「ふふふ、冗談だよ、素敵な瑠璃色じゃないか、今夜もこの背景で抱いてやるよ。」
              「あ……」
              「いいからいいから♪」