私の耳は貝の殻  海の響きを懐かしむ   

                                       ジャン・コクトー



   カミュ  お前の声が好きだ  
   海のように俺を包んでくれる  お前の声が好きだ

   もし俺が貝になったら カミュ   お前 海になって俺を包んでくれるか
   お前の声が潮騒のように俺の耳に快く響いたら
   俺はお前の蒼い宇宙の中で  ゆっくりとただよっていよう

   そんなに おかしいか?
   お前はいつでも俺の海だ   
   黙ってないで もっと声を聞かせろよ  
   お前の声が好きだ


「 ああ わかった  私がお前の海になろう 」
あの日 カミュは そう云った
俺をその手で抱きながら 確かにお前はそう云った

カミュ  
お前はいったい何処にいる?
俺を残して今何処に?

海を彼方に見晴るかす  お前の眠るこの丘で
俺はお前の声を聴く    記憶の中の声を聴く




                 ジャン・コクトー(1889〜1963)は、フランスの前衛芸術家。
                     たいそう有名なこの詩は、多くの人に愛されています。
                     原詩も素晴らしいのですが、
                     七五調の名訳が唇に馴染みやすいのです。
                     残念なことに翻訳者の名前がわからなかったので、
                     ご存知の方、御教授くだされば幸いです。

                     カミュ様を失ったミロ様の嘆きは深く、
                     このサイトでもいつの間にか、たくさんの作品になりました。
                     それぞれの味わいを感じていただけますように。

                     ※ さっそく霧風燐鬼さまから、
                        この詩を訳したのは堀口大学氏では?
                        と御教示いただきました。
                        霧風さま、どうも有難うございます。

                       調べましたら1925年の訳で、
                       原詩は、ほんとにこの二行だけなのです。
                       外国にも、俳句並みに短い詩があるのですね。