茜さす 紫野ゆき標野(しめの)ゆき 野守は見ずや 君が袖振る
    紫の匂える妹(いも)をにくくあらば 人妻ゆえに吾(わ)れ恋ひめやも

                                     万葉集より  額田王(ぬかたのおおきみ)
【歌の大意】
紫野を行き、標野を行って野守は見ているではありませんか、あなたが袖を振るのを。
            
             ※ 「茜さす」…枕詞。(古代紫は赤みを帯びていることから)「紫」にかかる。
               「標野」……皇室や貴人の所有地で一般の者の立ち入りを禁止したところ。

   

                                     万葉集より  大海人皇子(おおあまのおうじ)
【歌の大意】
紫草のように匂うあなたを憎いと思ったら人妻と知りながら恋をするだろうか。

                                 ◇◇◇◇◇

ミロ、はっきり言っておくが、私に向かって手を振るのはやめてくれ、恥ずかしくてかなわんっ!
先日の夕暮れ時に天蝎宮のベランダから手を振ってきたのにも閉口したが、
さっきは、教皇の間でも嬉しそうに手を振ってきたではないか。
周りにどれだけ人がいたと思っているのだ?
お前は、人目とか慎みとかいうものを考えたことがないのか?
まさか、私に手を振り返せ、というのではあるまいな?

そんなことを言うが、カミュ、俺はお前が好きなんだぜ?
好きな相手に会ったら合図するのは、
古今東西、古代中国だろうと現代聖域だろうと変わらないと思うがな。
俺たちは確かにアテナに忠誠を誓ってはいるが、
恋をしちゃいかん、というわけじゃあるまいし、そんなこと気にするほうがおかしいぜ。
ともかく俺はお前が好きなんだよ。





               
近江の蒲生の御料地(標野)に天智天皇が狩にきたとき、
               帝に知られぬように、かつての愛人、大海人皇子が袖を振ってくるので、
               額田王はハラハラしながらそっと合図を返します。
               それに対して大海人皇子は、
               「あなたが人妻ということはわかっていても恋をせずにはいられない」と告げるのです。
               どの教科書にも載っていただろう、万葉集でも一番有名な相聞歌。

               こんな素直なミロ様が好きです。