訓練を一休みして木陰へと向かうミロがそれを見つけたのはほんの偶然だった。

    あれ?ボタンだ、なんのボタンだろう?

足を止めて小石の陰から拾い上げたのは、なんの変哲もない四つ穴の青いボタンである。
ちょっと首をかしげながら木の根元に腰を下ろし、手の中でボタンを転がしているうちにミロの顔が輝いた。
「あ、このボタン、カミュのだ!」
どのくらい前になるだろうか、フランスからやってきたカミュに紹介されたときに着ていたシャツのボタンに違いない。
カミュの青い目の色とよく似ていたので、記憶に残っていたボタンなのだった。
あれからずいぶんたって、背も高くなってきたカミュがそのシャツを着なくなるとともに、そのことをすっかり忘れていたミロだが、どのくらいの間、この小石の陰に隠れていたのだろう、なんだか自分が見つけるまで待っていてくれたようで、嬉しい気がするのである。
夕方になり自宮に戻ったミロは、さっそく細い革紐を見つけ出してボタンに通し、首に下げてみた。
ちょっと長めにして誰からも見つからないように気をつけたつもりである。
カミュとは仲がいいけれど、まだなにももらったことはない。

   いつか、もっと仲良くなれたらいいんだけどな……

偶然見つけたカミュのボタンは、その後長い間ミロの首にかかっていて、お守りのように大事にされることになる。
その後、カミュと気持ちが通じ合うようになってからは、いつしかボタンの首飾りはミロの首を離れ、引き出しの奥に大切にしまわれた。

   ありがとう、俺のお守り ♪ きっとお前のおかげだ………

やがて、ミロもそのことを忘れて長い月日がたった。



「あれ………?」
約束の時間通りにやってきたカミュに「すまん、あと少しで終わるから!」と声をかけて片付け物を終わらせようとしていたミロが声を上げた。
「どうした?」
寄っていったカミュが覗き込むと、ミロの手にしているのは古びた革紐に通されている小さな青いボタンである。
「ボタン?」
懐かしそうに見ているミロが首を振った。
「いや、違う。俺のお守りだったのさ。でも、今は……」
ミロが微笑んだ。
「お前が俺のお守りだ………」

   お前がいるから、俺は無茶をしないでいられるんだぜ
   首には掛けられないが、いつもそばにいよう……二度と離れるものか

いぶかしげにしているカミュを引き寄せたミロが軽くキスをする。
明るい天蠍宮の午後、恋人たちの時間。


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