こころあてに折らばや折らむはつ霜の 置きまどはせる白菊の花 |
百人一首より 凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)
【歌の大意】 初霜があたり一面におりたので
それにまぎれて白菊の花がどこだかわからなくなってしまった
あて推量に折るならば折れるかもしれないが
さてどうであろう 真っ白い中の白菊の花なのだ
……………夢であることは、とうにわかっていたはずなのに
真っ白い中にカミュがいた。
その白さが霜なのか、雪なのか、それとも霧なのかは、よくわからぬ。
きららかに艶を打ち出した雪白の衣に白綾の帯を締め、ふくらに結い上げた髪の白銀の挿頭も重たげにすこしうつむいて立っていた。
思いもかけずに逢えたのが嬉しく思われて名を呼ぶと、驚いたようにこちらを見て頬を染める。
あたりに誰もいないのを幸い、そっと抱き寄せれば小さく息を飲み目を伏せた。
夢なら覚めぬがよい。
白玉楼にいるというのならそれでもかまわぬ。
我が手の中で震える人がいとおしく、このまま遠くへ行きたいとさえ思うものを。
人が来ぬうちに 夢が覚めぬうちに
そなたに触れて この想いを遂げよう
我が指が白い帯を解き 象牙の佩玉が清らの音を立ててすべり落ちる
我が手が雪の襟元にかかり 白磁の肌を薄紅に染めてゆく
煌めく挿頭をはずせば 艶やかな髪が白い肩をおおうのだ
目も眩む思いでもう一度抱き寄せんとしたとき
あたりを白色の光が包み 気がつけば真白な虚空に独りで立っていたのだ
手を伸ばしてもなにも触れず 彼の人の気配もない
カミュ………カミュ………
いまだ唇も重ねぬままに いまだ心も通わせぬままに
我が手をすり抜けていった人の名を想う
夢の中で私は泣いた
叶わぬ逢瀬の切なさに 届かぬ想いの哀しさに
夢でさえ触れ得ぬ彼の人を求めて私は泣いた
※ 「白玉楼」 文人が死後に行くという楼 (高く作った建物)。
唐の詩人李賀が死ぬときに天帝の使いが来て、
天帝が白玉楼を完成し、李賀を召してその由来を
書かせることになった、と告げたという故事による。