蒼 い 闇



  カミュ・・・・・・・・俺があの歌を初めてきかせたときのこと・・・・・・・・覚えてる?          

       ・・・・・ああ・・・・あれは確か・・・・
       ・・・あっ・・・・・・・・

   ん? どうして黙る?

       どうしてといって・・・・・・べつに私は・・・・・・

   目をそらすなよ。 この同じ場所で聞いた、って素直に言えば?

       ・・・ミロ・・・・・・・・
   
   口火を切ったのはお前だぜ? おかげでいろいろ思い出してきた。
   そうだ、俺は朝までかかって、やっと満足のいくように歌を仕上げて、
   嬉しさのあまり、夜が明けると同時にここに駆け込んできた。
   この部屋まで入るのは初めてだったから、やたらどきどきしてさ・・・・・・
   それは今だってそれなりにドキドキするが、あのときの気持ちは今でもはっきりと覚えてる。
   お前はまだ眠っていたが、寝顔を見るのは初めてだったので、横に立ってしばらく見惚れていたと思う。

       ミロ・・・そんな昔のことを、今さら・・・・・・・・

   今だから云うんだよ、今日は俺の日だぜ? なにしろ、お前が決めてくれたんだからな。
   ほら、こっちを向いて、四の五の言わないで俺の話を聞く!

       あっ・・・・ミロ!!

   そう、それでいいんだよ
   で、寝てるお前の髪があんまり綺麗なもんだから、そっと触ってみて、
   それでもお前が起きなかったから頬ずりもしてみたと思う。

       えっ? そんなことをしていたのか?!
       昭王と違って、ずいぶんと早熟なのではないか?

   そうかな? 早熟とは違うと思うがな
   まあ、二千三百年も経てば、だれでもそのくらいは進化するんじゃないか?
   ともかくお前を起こさなきゃ、歌を聞いてもらえない、
   そっと揺り起こして 「おはよう!カミュ」 って云ったら、お前、なんて言ったか覚えてるか?

       いや・・・・・そんなことは全く覚えていないが・・・・・・

   お前は俺の顔を見て、開口一番こう云ったんだぜ、
   「ああ、ミロの青い眼ってほんとにきれい!」

       私が? この私が、本当にそう言ったのか?

   俺からすれば、カミュの目のほうが綺麗だと思っていたから、そう言われて驚いた。
   ほら、またうつむく! こっちを向いて俺の目を見ろよ。
   
       ミロ・・・・ほんとにもう・・・・・・私は・・・・

   だめだぜ! 今日は俺の日なんだから俺の言うことを聞く!
   ともかく俺は、お前に歌を聞かせたい一心だったから、ベッドの横で、
   『この語呂がいいねとカミュが言ったから 3月6日はミロの記念日』
   と子供なりに歌を詠んで、お前に聞かせて、
   「この歌をプレゼントする」 とかなんとか云ったんだろうな。

   なあ、カミュ、お前、このあとどうしたか覚えてるのか?

      …あっ!

カミュが瞳を閉じて、ゆるゆると首を振った。
その頬が朱に染まったところをみると、
それは、覚えていないというのではなく、 云って欲しくないという風情であったろう。
しかし、今日のミロは容赦がなかった。

   俺が得意になってそう云ったら、お前はすごく嬉しそうな顔をして、
   「人からプレゼントをもらうのは初めてだよ!!ありがとう、ミロ!」
   そう言って俺にいきなり抱きついてきて、そして・・・・・

けれども、ミロはその言葉を最後まで言うことをしなかった。
カミュがミロの唇を柔らかくふさいだのである。
それはとても甘く感じられ、ミロの理性を痺れさせるに十分だったといえる。

   (まあ、いいか・・・・・・早熟なのは俺だけじゃない、と言いたかったんだがな。
    それにしても、あのときより、ずいぶん上手くなったものだな、感心するぜ。
    おっと、それは俺も同じか・・・・・・


ミロは、蒼い闇の中でしなやかな身体を抱きしめていった。