ミロがやってきたのは夜中に近かった。
「すまない………デスマスクにつかまって遅くなって……」
そっと寝室の扉を開けると、小さな明かりはついているもののカミュの姿は見えないのだ。
ベッドのふくらみに近付いたミロが、声をかけながらそっと毛布の端を持ち上げてみると、半ば顔を伏せて身体を丸めたカミュがそこにいた。
ミロの気配に臆したのか、いっそう身を縮めて息を呑む様がいとおしい。
遅れたことを詫びながら頬にかかる髪をそっとかきやると乾いた涙の跡が見えてミロをドキッとさせた。顔を見られたことを恥じたのだろうか、目をそむけてかたくなにミロを見ようとはしないのだ。
「カミュ……」
どうしたものかとためらいながらベッドに腰をかけ、背を流れる髪をやさしくなぜた。
「もっと早く……日の落ちる頃には来ようと思っていたのに、ほんとうにすまなかった。」
様子をみすまして、そっとかがんで艶やかな髪に頬をよせると甘い香が匂いたち、いかにも初々しく好ましくも思われる。
「あの………もしかして……俺が来ないかと思った? 心配…させた?」
その言葉に、丸い肩が大きく震え、シーツを掴んでいた指に力が加わるのが見えたとき、ミロは我慢できなくなったのだ。
「あ……」
身体を半ばおおう毛布ごと抱き寄せてそっと唇を重ねてゆくと、身をこわばらせたカミュが息をとめたようだった。
「大丈夫だから………遅れたことを許してくれる?…もう心配させないから……カミュ……大事な大事な俺のカミュ………」
あいかわらず一言ももらえなかったが、ミロの訪れを拒むようでもなく、震えながらも身を任せてくれるのがなんともいえずいじらしい。
夏の夜の短さが惜しまれることだった。
わずかなまどろみのあと、ミロが目覚めたのは夜の明け染めるころである。 どうやら一睡もしなかったらしいカミュが腕の中で遠慮がちに身じろいだのだ。
「カミュ………俺のこと……好いてくれる…?」
思い切ってたずねると、少しの沈黙のあと唇がなにか言おうとして震え、やがて諦めたのだろう、それはそれは小さく頷いてミロを喜ばせるのだ。
「明日も来てもいい?……それからあさっても…?」
目を輝かせたミロがたたみかけると、すこし唇を噛んだようにしてカミュがうつむいた。
「……来て…」
それはそれは小さな声だったが、その夜、初めて聞くカミュの声はミロの胸を十二分に震わせた。
「……ありがとう…」
心と同じくらいに震える声で答えたミロの目に涙が滲んだ。
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