俺は怒っている! 
 
   「いい加減にしろっっ!!!!」 
   と怒鳴りたいのをぐっと抑えて天蠍宮へと向かっている俺は、けっこうお人よしなのかもしれん。 
   やっと熟睡モードになったところを叩き起こされて、頭はガンガンするし、目は充血している。こんな茶番にさっさとケリをつけるべく
   足を早めている俺にどうやらカミュも安心したらしく、せかすこともなく隣に並んでついてきているのだった。 
   「で、こんどはどういう状況なんだ?」 
   「朝食を食べているときは問題なかった。ミロは食欲もあり、機嫌もよかったのだ。そのあとで紅茶を飲みながら、ミロが昨夜のことを
   覚えていないというので、精神攻撃を受けたことや、シャカたちが対処してくれたこと、それでも足りずにシベリアから私を呼んでくれた
   ことを話すととても驚いていた。」 
   「そりゃ、そうだろうな。奴には初耳だ。」 
   「そして、私が寝かしつけたことや、一晩一緒にいて様子を見ていたことを話していたら、また具合が悪くなってきたらしく顔色
   が………」 
   カミュが不安そうな顔で眉をひそめ、俺は内心で舌打ちするのだ。 
 
       またかよ、おい……… 
       年齢的には思春期かもしれんが、黄金聖闘士ともあろう者がそんなことでいちいち…! 
       遠距離片思い症候群ってのが、あるんじゃないのか? 
       ミロの奴が症例第一号かもしれん! 
 
   「それで?」 
   「熱が出たのだろうと思ったが、私は台所で水を使ったばかりで手が冷えている。」 
   「あ?」 
   それがどうした?と俺は思った。 
   「アクエリアスだから、そんなことはかまわんだろうが。」 
   「うむ、ただでさえ体温が低めなのに、さらに手が冷えていてはミロの熱を正確に体感することができぬと思い、唇で熱があるかどうか
   確かめた。」 
   「なっ、なにぃ〜〜〜っ!!!!!!」 
   俺は仰天した。 
 
       カミュの奴、いったいどこで熱を確かめたんだ??? 
       ま、まさか……唇と唇とかっっっ???? 
       そっ、それは熱を測るんじゃなくて、普通はキスっていわんかっっっ!! 
 
   絶句している俺には気付かないカミュの声が、さらに低くなった。 
   「立っていってミロの頭をそっと支え、額に唇をつけて熱を確かめたとたん、ミロの身体が崩れ落ちたのだ……」 
   そりゃ、当たり前だ………病み上がりの奴にはきつすぎる洗礼だったに違いない。 
   「びっくりしてベッドに運んでいる途中から、呼吸が切迫し顔面紅潮し冷や汗をかいているのだ。どう考えても普通の状態ではない。
   どうすればよかろう?」 
   「う〜〜ん、そうだな………」 
 
   俺は考えた。よおっく考え抜いた。 
   ともかく、カミュがミロにさわらんようにすることだ!ミロには残念だろうが、こんなに気楽にさわれるのだから、カミュはミロのことを
   なんとも思っていないのは確実だ。ただし、大事な友達なので、様子がおかしいと思ったら、すぐに熱を確かめようとするだろう。 
   このままほうっておいたら、ミロの呼吸がおかしいとでも思ったら、気道確保の体勢をとらせてからマウスツーマウスに持ち込み
   かねんぞっ!そうなったら、ミロのやつ、本当に心停止しちまうかもしれんっ! 
 
   「カミュ………俺は思うんだが、ミロの奴は聖闘士にしては虚弱すぎる。こんな有様では、黄金位を剥奪されるかもしれんぞ。」 
   「え……っ!」 
   カミュが青ざめて、立ち止まった。きれいな目が恐怖に震えるのを見て、ちょっと気の毒だとは思ったがやむをえん。 
   「奴をかばいすぎるのは本人のためにもならない。熱が出ようがふらつこうが、冷たく言葉で突き放せ!熱なんか測らなくていい!
   お前が手を出せば、奴はつい頼ろうとするだろう。6年近くもお前と接触がなかったから、お前のことが新鮮で無意識のうちに友達に
   甘えようとしてるんじゃないのか?」 
   俺も自分の睡眠が大事だから、つい言葉がきつくなり、まるでカミュを責めるようになってきたが、もうここまできたらどうしようもない
   のだ。 
   「すまんな……ちょときつく言い過ぎたかもしれんが、お前はシベリアで弟子を育てているだろう、氷河とかいったか? あれは今
   何歳だ?」 
   「私より6歳下だ…」 
   「それじゃぁ、まだ子供だな。お前は、いつもその弟子と暮してるから相手が病気なんかになると、ついつい甘くなっちまうんだと
   思うぜ。 6歳下ならそれでもいいだろうが、ミロはお前と同い年だ。奴を黄金聖闘士として大成させたかったら、優しくするのは
   やめるんだな。」 
   カミュは唇を噛んだ。小さいときから気持ちの優しいやつだったから、俺の言葉がこたえたのだろう。悪いことをしたという気がするが、
   だいたいこれもみんな、ミロが敏感すぎるのが原因なのだ。 
 
   気落ちしたカミュを従えた俺は、ミロの寝室に再び乗り込んだ。 
   当のミロはまだ赤い顔をして、ぼんやりと天井を見ていた。きっと頭の中にはカミュのことがぐるぐると渦を巻いているのだろう。 
 
   「ミロ!」 
   「あ…デスマスク!」 
   「安心しろ、俺がもうお前がぶっ倒れないように策を練った。」 
   「え……?それはどういう…」 
   「なに、たいしたことじゃない、感謝するには及ばんさ♪」 
   俺はミロの将来を簡単に約束すると、悲しいんだか嬉しいんだかどっちつかずのカミュに手を振って部屋を出た。 
 
   このあと、ミロがカミュにどうやってアプローチするのかは知らんが、ともかく俺の睡眠だけは確保できたっていうことだ。 
   今後カミュになにを言っても冷たくされるだろうミロの運命にちょっぴりの同情を禁じえないが、誰でも自分が可愛いからな。 
 
        カミュをどうやって落とすのか、ミロのお手並み拝見といこう♪ 
       障害が多いほど愛は燃えるっていうからな、まあ頑張ってもらおうじゃないか! 
 
   今日もいい天気だ。 俺は大きく伸びをした。
 





                           これは日記に書いた続々篇。
                           ミロ様の青いといっていい若さが微笑ましくなります、こんなころもあったんですね。
                           安眠欲しさにデスマスクがカミュ様に吹き込んだ言葉で、今後のミロ様の苦労が………。
                           お気の毒だけれど、しかたないですね、ミロ様の健闘を期待します。

                           
「なにが期待だっ!このあと、冷たいカミュ相手に俺がどれほど苦労したと思っているっっ!」 
                           「仕方あるまい、あの時は本当にそう信じたし、また、お前も倒れすぎたのだからな。」 
                           「それにしても納得できんっ………カミュ……お前、今からつきあってくれるだろうな♪」 
                           「……え?なにを?」 
                           「きまってるだろう?あのとき必要以上に冷たくされた
つ・ぐ・な・い♪」 
                           「あ………」 
                           「ふふふ♪」