※ 古典読本 62・63・64 「 聖女たちのララバイ 」 を再読してからお読みになることをおすすめします。
目が覚めたとき、カミュの姿が見えたのには驚いた。カミュは弟子の育成のためにシベリアにいるはずなのに、どうしてここにいるんだろう?この間、戻ってきたのは半年くらい前で、そのときも忙しそうなカミュとちょっと立ち話をしただけなのだ。いつだって、ちょっとの時間も惜しんで聖域の用事を済ませ、急いでシベリアに帰っていくのが残念でならなかったのに、俺の天蠍宮に泊まったのはなぜなんだろう?
ベッドの横の椅子にかけて、毛布にくるまって眠っているカミュはとてもきれいで、やっぱりドキドキしてしまう。シベリアの冷たい清浄な空気がカミュをもっときれいにしたんじゃないかと思うくらいで、カーテンを開けて明るい光の中でもっとよく見たいけど、そんなことをしたら起きてしまいそうで、我慢していたほうがいいに決まってる。
考えてみると、カミュの寝顔をまともに見たのは初めてで、そう思った途端、俺は真っ赤になってしまった。ずっとまえから、カミュの寝ているところを見てみたいとは思っていたけれど、それは、ベッドで寝ているところをこっそり覗いてみたいと思っていただけで、自分がベッドに寝ていて、横の椅子で寝ているカミュを見るなんていう状況は想像したこともない。
あれ?まてよ? ということは、俺の寝顔をカミュに見られてたんじゃないのか?
俺は、ますます真っ赤になった。なぜこんなことになったのか全然わからないけれど、ほんとにどうしてカミュがここにいるんだろう?
頭の中で同じ質問が堂々巡りをして、混乱してしまう。いろんなことを考えていると、頭に血が昇ってくるようで全身が熱くなる。
こんなところをカミュに見られたらまずいと思って、何とか落ち着こうと思うのだけれど、そう思えば思うほどドキドキしてきて、頬の熱さがわかるのだ。
困ったな、と思ったときだ、カミュが目を開けた。
「ミロ、起きていたのか? 具合はどうだ?」
「どうって……俺は、あの……」
「まだ顔が赤いな、熱があるのかもしれぬ。」
そう言ったカミュが俺の額に手を当てたので、気が遠くなりそうだった。
「あ……」
「ずいぶんと熱い……気分はどうだ?」
気分もなにも、俺はますますドキドキしてきて、心臓が苦しい気がする。俺が真っ赤になっているせいか、カミュの手はとても冷たく感じられて気持ちがいいのだが、熱が下がるどころか緊張と興奮で考えがうまくまとまらないのだ。
「気分は……そんなに悪くない……」
「水を飲んだほうがよいだろう、それから朝食も摂ったほうが身体のためだ。食欲はあるか?」
俺は、うんうんと頷きながらなんだか涙が滲んできた。あれほど夢に見ていたカミュが帰ってきてくれて、俺のために朝食まで心配してくれるなんて!
コップに水を注いでくれるカミュの指先がきれいできれいで、俺はただ嬉しくて見とれるばかりなのだ。
「起きられるか?」
そう言いながらカミュは俺がベッドに腰掛けるのに手を貸してくれた。俺はうまくものが言えなくて、渡されたコップを持つ手が震えてしまい、両手で持たなければならなかったほどだ。
「ミロ……」
驚いたことにカミュは俺の横に腰掛けて、小さく溜め息をついた。
「今まで留守にしていてすまなかった。氷河もあと少しで一人前になれる。半年もかからぬゆえ、もうすこし待たせるがそれでもよいだろうか?今すぐにでも帰って来たいのだが、弟子を採った以上、責任を放棄することはできぬのだ。」
恐る恐るカミュの顔を見ると、なんだかつらそうで、その口調もまるで俺に許しを求めているかのようだ。いったいどうなっているんだろう?
「あの……俺としては、カミュに早く帰ってきて欲しいと言ったことはあるかもしれないけど、それはまったく俺の我儘だから気にしないでくれ。カミュが責任を全うすることは当然だから、なにも急がなくていいんだよ。」
考え考えそう答えると、
「すまない……今度からはもっとしばしば帰ってくるようにしよう。」
そう言ってカミュはカーテンを開けてくれて、朝食の用意をしに部屋を出て行った。
俺はコップを置くと盛大に溜め息をついてベッドに倒れこんだ。カミュが座っていたところはまだ暖かくて、またしても俺をドキドキさせる。
こんなにやさしくされたら、俺はますますお前を好きになっちゃうじゃないか!
決めたっ! カミュが正式に戻ってきたら、機会をつかまえて絶対に告白するっっ!!
そして抱きしめてキスをして……♪
ああ、また頭がクラクラしてきた………。
「ミロ、朝食の用意が………ミロッ、大丈夫か!!」
ベッドに倒れこんで真っ赤な顔をしていた俺は、またしてもカミュに助け起こされ、今度はほんとに気絶したのだった。