当日はあの日のように京葉線で出かけていった。 違うのは女たちがいないことと、ジョアンの代わりに俺がいることだ。
園内はほどほどの混みようで風もない。 2月にしては日差しも暖かくてディズニー日和と言えるだろう。
「こないだ来たときはお前の代わりにジョアンがいたんだよな〜! あいつも大きくなっただろうな、ほんとに可愛かったからな! もう一度日本にきたら可愛がってやるんだが。」
「まったくだ。 私も弟ができたようですごく嬉しかった。 きっと兄もあんな気分だったのだろう。」
デスとアイオリアの言葉にくすぐったい思いをしながらビッグサンダーに向かって歩いていると、カミュがさらりと言った。
「ジョアンなら今日もいる。」
「え?」
「なに言ってんだ? お前は。」
ドキッとした。 まさか、カミュのやつ………!
「これがジョアンだ。」
しっかりと俺を指し示したカミュは怪訝そうな二人に、
「あのときミロは、とある薬の影響で身体が小さくなって五歳児と同じ体格になったのだ。 それは三日間続き、そのあとで後遺症もなく回復した。 だから、ここにいるミロがジョアンだ。」
「ええっ?!おい、ホントかよ!」
「まさかそんなことが!」
唖然とした二人になんの反論ができるだろう。 俺はしどろもどろになりながら肯定し、真っ赤になって謝った。
すると、突然の暴露に驚いたり笑っていたりしばらく混乱しながら俺を質問攻めにしていたアイオリアがいきなり俺の腕をつかんだ。
「おい、ミロっ! お前、魔鈴に抱かれてキスさせたろうっ!」
「いや、させたんじゃなくて、されたんであって……」
「それどころか魔鈴の胸にっっ………!よくも、触ってくれたなっ!」
「違うっ! 触ったんじゃなくて触らせられた………じゃなくて、単に押し付けられただけでっ!」
「許せんっ!」
「お前、シャイナにも触っただろうが!」
「だからそれは誤解でっ!」
二人に羽交い絞めにされながらふと気がつくとカミュが我慢できないというように笑ってる。 俺をかかえてるデスとアイオリアもこらえきれないようにして笑い始めた。
「お前もなぁ、ほんとに可愛かったぜ! スペースで泣いただろうが! こんどシャイナに言いつけてやろうか。」
「魔鈴って、ほんとは俺よりも強かったりするんだけど、知りたい?」
「いや、あの、それはぜひ遠慮させていただきたく……っ!」
「よしっ、これからスペースに行ってお前に根性がついたか確かめてやるからありがたく思え! もしも泣いたらカミュに抱いてもらって慰めてもらうんだぞ! かならず泣けよ!」
「そんな〜!」
そのまま方向を変えた俺たちは不幸にも行列の短かったスペースに午前中だけで五回も乗り、俺は死にそうな思いを味わった。 驚いたことにこんなに大人になってもあのときのトラウマは消えておらず、ほんとに心臓がバクバク言ったのだ。
「カミュ………俺、死ぬかも…」
さすがに泣きはしなかったので人前で抱かれることだけはまぬがれたが、本気で怖かったのだ。 幼少時の体験ははんぱではない。
するとさすがに気の毒に思ってくれたのだろうか、カミュが俺にこうささやいた。
「もうひとつのトラウマのほうは、今夜解決できるように思う。」
「………え? もうひとつのトラウマって?」
ぴんとこなくて質問すると、カミュが2月の風の中でさっと頬を染めた。
「あの………ジョアンが私のほくろを見つけた件だが、あれを気にしないですむ方法を考えた。」
うつむいたカミュの耳が真っ赤に染まる。

   あ………それって、もしかして今夜一緒に……?
   え〜〜〜〜っ!

「おい、デスっ! もう一度乗るっ! その次はスプラッシュだ! 来週はFUJIYAMAでもいいぜ!」
こうして俺はスペースの恐怖を克服した。 ディズニーってほんとに面白い。



             長かった 「願い事ひとつだけ」 もここで終わりです。
             なんとか元の身体に戻ったミロ、今頃はカミュともうひとつのトラウマ解消に努めていることでしょう。
             彼らの今後の幸せを祈ります。

                                                       ⇒ 小説目次へ戻る