佐々木信綱 (ささきのぶつな)

                       【歌の大意】     幼い子にも それなりの話があるのだろう 
                                   葡萄のかげに月が傾きかけているというのに まだ話は続いている



サガはアイオロスと連れ立って金牛宮横の階段を登っていた。
ふと足を止めたアイオロスが、くすっと笑ってやや離れた葡萄棚を指差した。
「どうした?」
「あそこに、ほら。」
葡萄棚の下のベンチに二人の子供の影が見える。
「あれは、ミロとカミュのようだな。」
「話なら昼間にいくらでもできるだろうに、なにもこんな時間に外にいることもなかろう。」
どうやらミロが一生懸命にしゃべっていて、カミュは聞き役のように思われた。
「幼い者にも、それなりに話したいことがあるものだ。時間のわからぬ二人でもあるまい。」
「それにしても遅すぎる。」
眉をひそめたアイオロスが二人を呼びに行った。
「心配性だな。ま、そこがいいところだが。」
アイオロスに連れてこられながら、ミロはまだカミュに、熱心に話し掛けている。
自分たちの子供時代もあんなふうだったのかもしれぬ、とサガは思うのだった。





                     中学の国語の教科書に載っていた短歌です。
                     なんとなく好きで、ずっと心の中にありました。

                     私のミロ様カミュ様は常に二十歳ですが、この歌に関しては、自然に情景が浮かびます。
                     聖域にはいかにも葡萄棚がありそうで、こんな光景、ほんとにあったでしょうね。
                                                                     

                                   ※「幼きどち」   幼い同士
                                   ※「ぶだう」    ぶどう



     幼きは幼きどちのものがたり ぶだうのかげに月傾きぬ