佐々木信綱 (ささきのぶつな)
【歌の大意】 幼い子にも それなりの話があるのだろう
葡萄のかげに月が傾きかけているというのに まだ話は続いている
サガはアイオロスと連れ立って金牛宮横の階段を登っていた。
ふと足を止めたアイオロスが、くすっと笑ってやや離れた葡萄棚を指差した。
「どうした?」
「あそこに、ほら。」
葡萄棚の下のベンチに二人の子供の影が見える。
「あれは、ミロとカミュのようだな。」
「話なら昼間にいくらでもできるだろうに、なにもこんな時間に外にいることもなかろう。」
どうやらミロが一生懸命にしゃべっていて、カミュは聞き役のように思われた。
「幼い者にも、それなりに話したいことがあるものだ。時間のわからぬ二人でもあるまい。」
「それにしても遅すぎる。」
眉をひそめたアイオロスが二人を呼びに行った。
「心配性だな。ま、そこがいいところだが。」
アイオロスに連れてこられながら、ミロはまだカミュに、熱心に話し掛けている。
自分たちの子供時代もあんなふうだったのかもしれぬ、とサガは思うのだった。
幼きは幼きどちのものがたり ぶだうのかげに月傾きぬ |