作詞 : 斉藤律子 歌 : 美川憲一
「今日5月15日は美川憲一の誕生日だ。」
「え? 誰だ?」
「美川憲一は 『 さそり座の女 』 を…」
「あ〜〜〜っっ、知ってるっ! ♪いいえ わったっしっはっ さそり座の女〜〜〜♪ 」
「いきなり歌われてびっくりした…!この歌は昭和47年に流行ったのだが、古い歌なのでお前が歌えるとは思わなかった。」
「そのくらい歌えなくてどうする? 俺の星座を冠した歌だから、歌えて当然だ♪古典読本に出るのを今か今かと待っているのだが、一向に出てこない。
100作目に出るかと期待していたら、お前が 『 雨ニモマケズ 』 でさらっていったからな。」
「ああ、『 さそり座の女 』 は今後も出ないだろう。」
「なにっ! それはどういうわけだっ!」
「あの歌の歌詞を知らぬのか?
♪いいえ私はさそり座の女 お気のすむまで笑うがいいわ
あなたは遊びのつもりでも 地獄の果てまでついて行く
思い込んだら いのちいのち いのちがけよ
そうよ私はさそリ座の女 さそりの星は一途な星よ〜
ミロ、ニヤニヤして聞くのはやめてもらおう!
♪いいえ私はさそり座の女 お気の毒さま笑うがいいわ
女の心を知らないで だまして汚して傷つけた
ばかな男は あなたあなた あなたなのよ
そうよ私はさそり座の女 さそりの毒はあとで効くのよ〜
3番は時間の都合により割愛させてもらう。」
「お前……案外、歌 うまいのな! 初めて聞かせてもらったが、俺の方こそびっくりした……」
「……そ、そんなことはどうでもいい。 ともかくこの内容では話が創れまい?
あまりにも明確に女という語を前面に出しているし、それよりもさらに問題なのは、愛していたらしい男に遊ばれてだまされて汚されて傷つけられてひどい目に遭っているではないか!」
「ずいぶんと並べてくれたな……とてもお前の口から出る言葉とは思えん!」
「しかたあるまい?歌詞に忠実に再現したまでだ。」
「まあ確かに問題がありすぎるが、『 地獄の果てまでついていく 』 ってところはハーデス篇を思わせるし、『 さそりの星は一途な星よ 』 というとこなんかは美味しいぜ♪」
「しかし、古典読本にはいささか無理があるだろう。」
「う〜ん……しかし、捨て去るにはあまりに惜しい! ……いっそのこと黄表紙にどうだ?」
「……え? ……黄表紙に?」
「まあここは、女って言葉は無視してだな、ほら、お前が宝瓶宮戦で氷河と相討ちになったろう?
で、お前は冥界に赴き、その挙句ハーデスの走狗と成り果てて俺たちを倒すためにやってきた。」
「成り果てて、って…」
「そんな嫌そうな顔するなよ。 これは歪曲した文学的表現だが、一面、お前達の心理をついているだろう?」
「ん……それはまあ…」
「このことは、見方を変えるとこうなる。 お前が、一途にお前のことを愛していた俺を捨てて弟子と相討ちになる道を選び、さらにアテナの首を取るためにまがまがしい冥衣まで纏って聖域にやってきた。その結果、おおいに傷ついた俺は、それでもお前のことを諦めきれずに命がけで地獄の果てまで追っていった、と言えないことはあるまい?
で、最終的に復活した俺たちは誤解を解こうと努力し夜を重ねるのだが、いったんできた溝はなかなか埋まらない。 そして俺たちは、ええっと、その……参ったな……言いにくいな………救いようのない愛欲の淵に堕ち込んでゆく。
だから黄表紙。」
「…え? しかし、それは事実ではない……!」
「だからさ、創作だろ? こういう見方もできるっていう方向性を示唆しただけだよ。 」
「でも……私は………お前を捨ててなどいないし……だましたり傷つけたりしてもいない……私を追って冥界にまで来てくれたお前を愚かだと笑ったりはしなかった………そんな…そんな覚えなどないのに………ミロ……私は…」
「あ……あの…なにもそこまで……俺は 『 愚か 』 なんて一言も言ってないし……おい、ちょっと待て!
これは単なる創作で…」
「お前もそのことはよく知っていると信じていたのに………ミロ……」
「あ、あの………カミュ…」
「復活してからの私たちは琴瑟相和し、お互いを想いやって生きてきた………そうではなかったというのか?」
「お、おいっ、誤解するなよ! いいか、俺はお前を心底から愛してるし信頼してるし、二心をいだいたこともなければ片時も忘れたことなどありはしない! お前は俺の人生そのものだし、常に生きる目標で、遥かな至高の憧れだ! どれほど愛しても、まだ愛し足りない、知り尽くせない、いとおしくてなつかしくて一瞬たりとも手放したくない、そういう存在なんだよ、俺にとってのお前は!」
「ミロ……」
「いいか、忘れるなよ……俺はいつでもお前のことを思っているし、お前の幸福を願わないときはない。 俺を信じて………俺のいのち……俺のカミュ…」
「ミロ……ミロ………」
「…わかってくれた?」
「ん………すまなかった……つまらないことを言った…」
「いいんだよ、今日のことは俺が悪かった。 仮定の話とはいえ、お前を不快にさせたのは俺の罪だ。」
「あれが罪なら……罰を与えてもよいか?」
「…え? うん、いいぜ、なんでも言ってくれ! このスコーピオンのミロ、どのような罰も甘んじて受けようではないか。」
「大時代的だな。………では、判決を申し渡す。 」
「うむ!」
「私を…寝かせるな。」
「………え?」
「一度しか言わぬ。 二度言わせるのは無粋だ。」
「あ………そうか、わかったよ、カミュ……こんなに、こんなに愛してる♪」
「ん…」
やさしい抱擁とキスが交わされる。 それは、風薫る五月の黄昏どきのこと。
お察しの通り、これは 「 お誕生日ミニミニ」 から昇格したものです。
「 さそり座の女 」 、以前から心の中をちらちら掠めてはいました。
しかし、残念なことにミロカミュの世界とは程遠い内容なんですね
(涙)。
これはもう、諦めるしかないと。
けれども、捨てる神あれば拾う神あり!
今日、5月15日に生まれた人には、
ピエール・キュリー、メッテルニヒ、瀬戸内寂聴、美輪明宏あたりが目立ったのですが、
やはりこの人でしょう、美川憲一!
書いてみたらあまりの長さに掲示板では読みにくく、
さらにカミュ様が生真面目に抗議したために、ついに内容を買われて、古典読本に編纂です。
かくて 「 さそり座の女 」 満を持しての登場です。
よかったわねぇ、ミロ様♪
「よかったって………最初こそよかったが、あのあと、大変だったのだからな!
俺の即興で創ったストーリーが苛酷でうがち過ぎで色情的に過ぎると非難ごうごうだ!」
………え
「朝まで寝かさないっていったって、ちっとも甘くなんかないっ!
寝物語で論理的に批判を展開し、俺のストーリーの欠陥を鋭く突いてきた。
アドレナリンの分泌が盛んでも、それが必ずしも甘い方向につながるとは限らない!
寝かされなかったのは俺のほうだ!」
あ、あの……なんとお詫びすれば…?
「そうだな……ここは、その、なんだ……」
は?
「ええい、察しの悪い! 次の話の方向性についてだ!」
え? 方向性?……あ! な〜るほど♪
「わかればよろしい、わかれば、うん♪」
しかと承りました、次作で御存念を十二分にお晴らしくださいませ。
いいえ私はさそり座の女 お気のすむまで笑うがいいわ |