ざわわ ざわわ ざわわ  広いさとうきび畑は
  ざわわ ざわわ ざわわ  風が通り抜けるだけ
  今日も見渡す限りに 緑の波がうねる 夏の陽ざしの中で

                            「 さとうきび畑 」       作詞  : 寺島 尚彦   歌手 : 森山良子


毎年夏が来ると、ここ日本では昔あった戦争のことがテレビで採り上げられる。
初めのころは日本語がわからなかったのでほとんどテレビは見なかった。 カミュが英語放送を見たり、俺が温泉番組を見ていたくらいのものだ。
しかし、日本語に不自由しなくなってきた去年の冬あたりから徐々にテレビを見始めて、ニュースだけでなくドキュメンタリーや教養物にも注意を惹かれるようになってきた。
日本の8月は戦争のことが思い出される季節らしいことがわかったのは、つい最近のことだ。

「特攻隊って?」
「第二次世界大戦も終盤になると、敗戦の色が濃くなり、捨て身の作戦が決行されるようになった。 すなわち、爆弾を搭載した戦闘機で敵艦に体当たりして撃沈させようという作戦だ。」
「なにっ! そんなことをしたら確実に死ぬぜ! 無茶苦茶だ! だいたい、戦闘機がぶつかったくらいで駆逐艦や空母が沈むのか?」
「しかし当時の軍部はそれを行い、特攻隊員には主に独身者が選ばれた。 指名されては拒否できなかっただろうと思われる。 実際に敵に与えるダメージよりも精神論を重視した気配さえあるという。」
「それはあんまりだ!」
俺たちとたいして歳も変わらない彼らは、死ぬかもしれない、ではなく確実に死を迎えるために出撃していったのだ。

テレビでは特攻隊員として死んでいった恋人を今も想い続けている老婦人のことを映している。 僅か婚約一ヵ月後に飛び立って二度と返って来なかったのだという。 婦人は最後に恋人からもらった手紙を今も大切に持っていた。
「死ぬのがわかっていて婚約して………」
もう言葉が続かない。 その気持ちを思うと泣けてきた。

   もし、俺だったら………俺とカミュだったら………
   死にたくない   離れたくない  カミュを残して帰らぬ旅へと出てゆくなど絶対に嫌だ
   しかも、その死がなんの役にも立たなかったかもしれないのだ  そんな馬鹿な話があるか!!
   それでも………それでも行かなければいけなかったのだ
   ほんの普通の人間が
   少し前までは学生だった人間が
   恋をして結婚して普通の家庭を持つはずだった人間が!

黙ってテレビを見ているカミュの手を取った。
「俺たちは聖闘士だから、必要とあればいつでも闘うし、なにものをも恐れはしない。 常にその覚悟はできている。 俺たちの闘いにはアテナとともに地上を守るという立派な理由があり、その一翼を担えることに誇りを持っている。 でも………」
耐えられなくなってカミュを抱き寄せた。
「やはり死にたくはない。 おまえを置いていけない。 先に逝かれるのもいやだ………カミュ…… 俺は我が儘か?」
「ミロ………」
「お前を知って、俺は強くもなり弱くもなった。 お前を想いながら闘える。 お前の存在が勇気を与えてくれる。 その反面、お前と離れることになったら、という恐怖が心の奥底から湧いてきて俺の足をすくませる。」
やさしい手が俺の髪を梳き、暖かい唇が首筋に押し当てられた。
「私とて死にたくはない。 もう別れない。 二度とお前を置いて逝かないと決めたのだ……… 」
「わかってる………わかっているよ……………俺のカミュ…」
でも、俺たちは知っている。
闘いの場に身を置く限り、一緒に逝くなどという僥倖は有り得ないということを。
どちらかが先に逝き、残されたものは涙を振り捨てて闘い続けなくてはいけないことを。

きれいな髪を撫でながらぽつりと言った。
「戦争なんて、なくなればいいのにな………」
「ん…」
テレビが沖縄の海を映し、静かな歌が流れてきた。





            初めて聴いたときから心に残り、とても好きな歌ですが、
            どうしても泣いてしまって歌うことができません。
            涙が流れて喉が震えてしまいます。
            しみじみと聴いて心に響かせる歌です。
                                                        2007.8.15
 
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