抱きあげて つれてって時間ごと どこかへ運んでほしい
  せつなさのスピードは高まって  とまどうばかりの私

                                             「 セカンド・ラブ 」 より      作詞 : 来生えつこ


「そなたをいつまでもこの屋敷に置いておくわけにはいかぬ。 父君に願い出て、そなたを迎えとるための新殿を用意するまで今少し待ってほしい。」
「まあ!………そのようなことがほんとうにあるのでしょうか………」
「ほんとうだとも! 私を信じてくれてよいのだから……カミュ…」
「あ………」
なよやかな身を少将に預けていた姫が甘い吐息を洩らす。 いまだ物慣れぬ身とはいえ、少将の丹念な愛の仕草がわからぬ筈がない。 熱を含んだ唇が頬に耳朶に首筋に触れてゆくにつれて、恥じらうばかりの姫の惑乱の度は増してくる。
「少将様……そのような……そのようなことをなさっては……」
「そうではなくて……ミロ、と呼んで…」
「……ミロ様………ああ…」
夜毎の逢瀬は、何も知らずにいた姫の身も心も甘やかに変えつつあり、それを認めた少将は嬉しくてならぬのだ。 人知れず咲き初めた白い花をおのれの好みの色に染めてゆく楽しさは、言うに言われぬものがある。
「朝が来る前に別れねばならぬのが、どれほどつらいことか………できるものなら、そなたを懐に入れて帰りたい…」
「ミロ様……」
「カミュも、そう思ってくれる……?」
「わたくしは……」

   ああ、そうできたらどんなに嬉しいことでしょう………
   こんなにもいとしいミロ様と一緒に暮せたら 
   朝も夕も いえ 昼も夜も やさしいお声を聞いていられるのだわ
   お召し物に香を焚きしめてさしあげて  それを着せ掛けてさしあげて
   お出かけをお見送りして  お帰りになったらいろいろなお話を聞かせていただいて
   そしてそして…………ああ…ミロ様……

おずおずと伸ばされた手が少将の背に回り、こらえきれずに洩らされた甘い吐息は胸をくすぐるのだ。
言葉に出せない想いは、たしかに少将に伝わらずにはいられない。

   連れて行って………わたくしをここからさらっていって………
   早く 早く 風のように連れて行って………

せつなげに、身を揉みこむようにすがりつく姫に少将は目をみはる。
「かならず……かならず………カミュ…」
やがて来る春を誓って、二つの想いが重ねられていった。




                        
落窪物語、初めての古典読本への進出です。

                        以前から目をつけていたこの歌ですが、聖闘士のカミュ様にはいまひとつあてはまらず。
                        もったいないと思っていたら、彗星のように現れたカミュ姫がさらっていきました♪
                        いえ、さらってほしいのは姫ですが(笑)。

                        早くさらっちゃってください、少将様!