「今夜はいじめてやるからな♪」

その言葉を本気にしたのだろうか、カミュは恐る恐るといった様子で俺の横に身を滑らせてきた。いつもならすぐに俺の胸に頬を寄せるのに、なんだか赤い顔をしてうつむいているのがたまらなく可愛いのだ。
「ん? どうした?」
知らないふりをして訊いてやると、
「あの………なんでもない…」
という声が小さくて、おしまいのほうはかすれてしまう。
「あのこと…本気にしてるのか?」
「…え」
「いじめるって言ったこと♪」
「だって……あの…」
ますますうつむいてしまったカミュの形の良い顎に手をかけて上向かせ、そっと唇を重ねてやった。甘くやわらかく心の奥底まで溶けてしまいそうなキスがカミュの緊張をほぐして身も心も俺に添わせてくれるのだ。
「ミロ……」
俺の目を見つめる瞳が濡れて、カミュの想いを映し出す。 それを合図にしたようにカミュをいつくしみ始めると、息をひそめかすかに身じろいでじっと耐えているのがいつものことだ。
「もっと自由に……思いのままに振舞っていいんだよ……ここには誰もいない………俺とお前の二人だけだから…」
ゆるゆると首を振るカミュは俺の話を否定しているわけではなくて、ただひたすらに甘い試練に耐えているだけなのだ。
「自分を解放しないのなら、いじめてやろうかな♪」
耳元でささやいてやると白い身体がびくりと震えたようだ。
「でも……あの…」
答える声は震えを帯びる。 それは恐れというよりは、当惑と、そしてわずかな期待を滲ませてはいなかったろうか。
「あんまり可愛いと、いじめたくなるって知ってる?」
そういいながら抱きしめて、恥じらいおそれるカミュを深い陶酔の海に誘い込んでゆくのはたやすいことだ。 俺の波に翻弄されるカミュはやっと息をつぎ、ゆらゆらと波間を漂い、そして果てもない水底に引き込まれ俺の腕にからめとられて浮かび上がることも許されはしないのだ。
「ミロ……ミロ………もう私は…」
涙を滲ませ、かすれた声で訴えるカミュがいとしくて嬉しくてたまらない。
「もう……頼むから……これ以上は…耐えられないから…」
せつなげに眉を寄せて訴えるカミュはいかにもつらそうで、でもとても美しくて俺の心をかき乱す。
「カミュ……カミュ………愛してる…」
すがるカミュをかかえたままで、俺は波おだやかな海面目指して浮かび上がっていった。