「ミロ、こんな時間までいったいどこに? サガも心配していたぞ!」 聖域まで息を切らせて駆け戻ってきたミロは、白羊宮の横手でアイオロスに呼び止められた。 「あ、あの……ごめんなさい、黙って出かけて。 昼間、皆で街に出かけたときに忘れ物をして、取りに行って来ました!」 真っ赤になった顔が夜の闇の中でどれほど見えただろうか。 アイオロスは、まだ小さいミロの金髪をやさしくなぜると、 「それはいいが、心配をかけるのは感心しない。 きちんと許可を取るようにしなくてはいけないよ。」 そう言って諭すと、背中をぽんとたたいて帰宮をうながしてくれた。 ほっとして、そのままいっさんに宝瓶宮までのぼってゆくと、ミロの小宇宙を感じ取っていたに違いない、カミュがすぐに出迎えてくれた。 「どうしたの? ミロ、さっきサガがミロのこと捜してたよ?」 「うん、もう大丈夫、アイオロスに訳は話しておいたから。 心配かけてごめん。」 外の風は寒い。 カミュがミロを中に入れて扉を閉めた。 手に持った小さな灯りがやさしい姿を照らし出して、ミロにはなんだかまぶしく思われた。 「あの……これあげるよ!クリスマスにはまだ早いけど、僕からのプレゼントだから。」 「え……?」 驚いているカミュの手に水色のあたたかな感触のものが渡された。 「ミロ……これ…手ぶくろ?」 「……はめてみてくれる? 」 カミュの手から灯りを受け取り、ミロはどきどきしながらカミュの手元を見つめている。 おずおずと手ぶくろをはめたカミュがほのかな灯りに手をかざすと、手の甲の白い模様が浮かび上がって見えた。 「あ! これ、雪の結晶だよ、ミロ、どうしてこの模様を?」 「え? それ、雪のなにかなの?」 まだ雪の結晶を見たことのないミロには、カミュの言っていることがわからない。 それでも、カミュが喜んでくれていることはわかるのだ。 「ミロ……ありがとう……クリスマスプレゼントなんて初めてもらった。」 頬を染めているらしいカミュにそう言われたのが、ミロには嬉しくてたまらない。 思い切って買いにいってやっぱりよかったのだ。 「でも………ミロに何も買ってあげられない……お金を持ってないもの……」 恥ずかしそうに小さな声でカミュが言い、ミロは、はっと胸をつかれた。 手ぶくろを買ったお金は、村を出てくるときにミロの叔母がこっそり持たせてくれたもので、今まで大事にしまっておいたものだったのだ。 カミュには、どうやらそんなものをくれる身内はいなかったらしいことに、ミロはこのとき初めて気付いたのだった。 「カミュ………」 なにも言えなくて、ミロは黙ってしまった。 どうやって慰めていいのか、ミロにはわからない。 ……わるいことをしたのかな……喜んでもらおうと思ったのに、かえってカミュを悲しくさせたのかな…… うつむいていると、ミロの手があたたかい感触で包まれた。 「ミロ……ほんとにありがとう……手ぶくろはめるの、初めてだよ。 とても暖かい……ミロの心とおんなじくらいに暖かいよ。」 「カミュ……」 まだ小さかったけれど、ミロにはカミュの心が十分に伝わった。 幼い者には幼いなりの心の触れ合いがあるものなのだ。 「カミュが笑ってくれれば、それが一番のプレゼントだよ! それが一番嬉しいから♪」 小さな手が握り返された。 帰って行くミロが扉をあけたときだ、 「ほら、こんなに暖かい♪」 振り返ったミロの頬にカミュが手ぶくろをはめた手で触れてきた。 「あ………ほんとだ♪」 手ぶくろを通して、カミュのあたたかさが流れ込んでくるようだった。 「じゃあ、また明日!」 「うん、また明日ね!」 ミロには手ぶくろがなかったけれど、十分あたたかい帰り道になった。 「なあ、カミュ、お前、あの手袋のこと覚えてる?」 「ああ、あの水色の? もちろん覚えている。 そこの一番上の引き出しの左奥にしまってある。」 「俺さ、あの時はお前の笑顔で十分だったけど、今の俺はもう少し違ったお返しが欲しいね♪」 「私もあの時のような子供ではないからな、今なら、お前の期待に応えることができる。」 「ほう、話がわかるじゃないか♪ それじゃあ、さっそく♪」 「なにを勘違いしている? 先週からムウに編み物を習って、お前に手袋を編んでいるのだ。 それも、喜べ、五本指の編み込みだ。 手が込んでいるぞ。」 「え………? いや、それも、むろん嬉しいが……」 「ならば、問題あるまい、今年のクリスマスプレゼントはそれでよいな?」 「あ………うん、もちろんいいとも♪」 ちょっと考えたミロだが、手袋にはそれなりの使い方があると思い直したものだ、 たとえば、とても寒い夜にカミュの……それで俺が………するとカミュが…… 「それは楽しみだな♪ 待ってるぜ!」 ミロが満面に笑みを浮べる。 人生の楽しみはまだまだこれからなのである。 |
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