「二人とも気がついたね、よかった!」
「あ、サガ!今日はほんとうにごめんなさい。」
「失敗は誰にでもあることだ。
大事なのは、それを今後に生かすことなんだよ。」
やさしく言ったサガが二人の姿を見て笑う。
「それにしてもずいぶん汚れたものだ。 身体を洗ったほうがいい。 まだ具合が悪いようなら私が洗ってやってもいいのだが、どうするかな?」
「とんでもないっ、自分で洗えますっ!」
真っ赤になったミロがすぐさま叫び、カミュも恥ずかしそうに頷いた。
「では、自分たちで。」
にっこりしたサガに導かれた双児宮の浴室はとても明るくて広々としている。
「わぁっ、天蠍宮と違って天窓がついてる!」
「宝瓶宮のタイルは青いけど、ここのはきれいな唐草模様♪」
覗き込んだ二人が喜びの声を上げる。
いったいいつ頃に建てられたものかはわからないのだが、各宮の建築様式は少しずつ異なり、ここ双児宮の浴室は天蠍宮とも宝瓶宮とも違ってたいそう広いのだ。
浴槽も大きくて、小さい二人には、本で見たことのあるプールのように見えた。
「もうお湯を張っておいたから、好きに入りなさい。 それが済んだらみんなで夕食だ。
二人一緒に入ったほうが早く食事にできるが、どうするかな?」
「…え?」
カミュと一緒に入る…って?
そ、そんなことできないっっ、身体中打ち身のあとだらけでかっこ悪いし………
だいいち、裸を見られるなんて恥ずかしい…
それにそれに、カミュの裸を見るなんて……そんなこと絶対にできないっっ!!
「いいえ、一人で入ります!」
真っ赤になってそう言うとカミュも頬を染めて頷いたことは頷いたが、ちょっと首を傾げる。
「……でも、ミロはあちこちが痛いでしょ?一緒に入って背中を洗ってあげたほうがよくない?」
「そっ、そんなことない!一人で洗えるよ、男だからね、痛くなんかないもんっ!」
「…そう?それならいいけど…」
まだ心配そうなカミュがサガを見上げた。
「ミロが、ああ言っているんだから大丈夫だろう。 タオルはこの棚にある。 着替えも二人の宮から持ってきてあるから、きれいになったら食堂においで。」
二人を残してサガが出てゆき、あとにはちょっと顔を赤くした二人が残された。
「カミュが先に入るといいよ。」
「ううん、ミロはまだあちこちが痛いんだから先に入って。」
しばらく押し問答したあと、根負けしたカミュが先に入ることになった。
「じゃあ、向こうにいるから、上がったら呼んでね。」
ベッドに戻って痛みをこらえながらそっと横になる。
一緒に入るなんてとてもできない……
どうしてカミュは恥ずかしくないのかな?
恥ずかしいのは俺だけなのかな?
あれこれ考えていると、やがてカミュがドアから顔をのぞかせた。
「いま上がったから。今度はミロがどうぞ。」
「うん、いま行く。」
カミュの横を通り過ぎるとき、せっけんのいい匂いがした。
痛みをこらえて身体を洗い、大きな浴槽につかってみる。
とてもいい気持ちで、痛みが少しまぎれるようだ。
やっぱり一緒に入ったら楽しかったかな?
そしたら、海みたいに泳いじゃったかもしれないな♪
あ……痛いからやっぱりだめだ……
それにしても、カミュが助かってほんとによかった!
温かい湯に身も心もほぐされてミロはすっかりいい気持ちになった。
上がってから、部屋で待っていたカミュと一緒に食堂に向いながら言ってみた。
「こんど、うちのお風呂に入りに来てよ、ここみたいに広くないけど星座の模様のタイルがあるんだよ!」
「いいの?
それじゃ、宝瓶宮にも来てね、タイルが青くてきれいだから♪」
「ふふふ、面白〜い!アフロのところはきっとバラ模様のタイルなんだよ!」
「ああ、それ、きれい♪ デスマスクのところは蟹の模様かもしれない♪」
楽しげに言う二人には、巨蟹宮の浴室の壁にやがて人面が配されることなど想像もできないのだった。