小さいころは神様がいて 不思議に夢をかなえてくれた
やさしい気持ちで目覚めた朝は 大人になっても奇蹟はおこるよ
カーテンを開いて 静かな木漏れ陽の やさしさに包まれたなら きっと
目にうつるすべてのことはメッセージ

「 やさしさに包まれたなら 」 より      作詞 : 荒井由美

「ミロ、朝ごはんだからもう起きなさい。」

   そうだ、あれが俺の母親の声だ、いま思い出した。
   眠くてベッドの中でうつらうつらしてると、いつも起こしにきてくれたものだ。
   額の金髪の上からやさしくキスしてくれてさ……そんなに笑うなよ、誰でも子供のときはある。

   で、ケーキが食べたいな、と思ってるとするだろう?
   あるんだよ、これが不思議に!
   家中にいい匂いが漂っていて、俺は跳ね起きるんだ♪

「朝ごはんだから戻ってらっしゃい!」

   これは俺の叔母の声だよ、ほら、トラキアの。 知ってるだろ? こないだ連れて行った。
   叔母の家に暮すようになってからは、毎日早起きして外に飛び出していったものだ。
   従兄弟のディミトリーとソティリオといつも一緒に遊びまわってた。
   ああ、川で魚を捕まえて、野原を駆け回っていたからな、起こされるなんてことはなかったよ、
   寝ているのがもったいなかったんだと思う。
   叔母はやさしくて、俺たちが泥まみれになって戻ってきても叱ったりはしなかった。
   あらあら、って言いながら着替えさせてくれるんだ、ほんとにやさしかったんだぜ♪

「ミロ、朝食の用意ができている。」

   ほら、これがお前の声だ。
   アクエリアスのカミュが俺のために朝食を作ってくれたのさ、こんなに嬉しいことはない♪
   俺はゆっくりと伸びをして、ベッドから起き上がり、お前を見つけて朝の挨拶をする。
   もちろんやさしい愛のキスだ♪
   それから俺は窓辺に寄ってカーテンを開ける。
   そうすると食卓に木漏れ日が差し込んできて気持ちがいいんだよ、食事がいっそう美味しくなる気がする。
   お前が淹れてくれたモーニングティーを飲んで、他愛ないおしゃべりをしてさ、
   そんな日常が幸せってやつなんだろうな…………



「ミロ、朝食の用意ができている。いいかげんに起きたらどうだ?」
カミュの声で目を覚ました俺が時計を見ると、もう九時だ。
「ずいぶん寝過ごしたな、そんなつもりはなかったんだが。」
「紅茶が冷める。 声をかけるのは三回目だ。」
「それはすまなかった、すぐ行くよ。」

今日もいい天気で日差しがまぶしい。 木漏れ日の中で、カミュと摂る朝食はいいものだ。
「何か夢でも見ていたのか?」
「え? どうして?」
「起こしにいくたびに楽しそうに微笑んでいたからな。」
「ふうん……そういえばお前としゃべっていたような気がする。」
「それなら今と同じではないか。」
まったくだ、夢の中でも現実でもお前と一緒っていうのはいいもんだ。

「お前、神様って信じるか?」
突然の質問にカミュが紅茶を口元に運ぶ手をとめた。
「神………私たちはアテナの聖闘士だから、信じるというよりもその実在することを知っている。」
「それはそうだけどさ、俺のいうのは、もっとこう……なんていうのかな……なにかいいことを運んできてくれる幸運みたいなもののこと♪」
「かなり漠然としているな。」
「そうそう、それ! 漠然でいいんだよ! なにかいいことがあったとき、『 神様のおかげだ、きっと♪ 』 って思ったことがあるだろ、子供のときにさ。 嬉しかったときに、まるで神様がそうしてくれたような気がする、そういうのって信じるか?」
カミュは少し考えているようだった。

   私の子供時代の記憶の大部分は聖域でのものだ……フランスでの記憶は断片的なものに過ぎない
   小宇宙の鍛錬に明け暮れていたあの暮らしの中で、神様のおかげだ、と感じたことは、そうだ、確かにある
   今から思い返しても………

「俺はね、お前と出会えたことを、神様のおかげだと思ってる。 63億人を超える地球の人間の中で、俺とお前が出会い、ともに黄金聖闘士となったんだぜ、この天文学的確率は、もはや奇蹟以外の何者でもあるまい。 いや、ほんとに計算しなくていいぜ。」

   まったく真面目なんだから………そこがまた、いいんだが♪

「だから、俺はこの日常に感謝する。 お前と暮らす日常は、毎日が黄金の連なりだ。 俺の人生にお前を巡り会わせてくれた奇蹟に感謝せずにはいられない。」
真剣にそう言ったら、カミュはすぐに返事ができずに言葉を探しているようだったが、やがて真っ赤になってうつむいてしまった。
「今度は俺が紅茶を淹れよう、ミルクティーでいいか?」
そう言ってカミュの横を通り過ぎようとしたとき、やさしい手に引き止められた。
「ミロ………」
蒼い瞳が俺を見つめる。
「私も感謝している………ありがとう……」
かがみ込んでそっと口付けながら、花のような日常に俺はもう一度感謝した。




                 30年前につくられたこの曲は、
                 1989年に公開された、映画 「 魔女の宅急便 」 のエンディングの挿入歌となりました。
                 ほんとに、やさしさあふれる曲です、作り手の心が伝わってきます。

                 長毛の白猫を飼ってますけれど、黒猫も飼ってみたいのです、影姉も影管も。
                 もちろん、ジジって名前をつけて♪
                 赤いリボンを結んでやろうと思います。

                 ………キキがカミュ様で、トンボがミロ様って設定、いいと思いません?
                 (映画見てない方、わからなくてごめんなさい、この機会にいかがですか?)