「 講習会 」

                                                   あさぎ & インファ   共作

スカーレットニードルの威力はピンポイント系の技ではピカイチであろう。
いや、アフロディーテのバラ投げのほうが……という向きもあろうが、ここはミロ賛美サイトなのでその説は受け入れがたい。

今日も天蠍宮ではミロとカルディアが楽しく技比べに余念がない。その横でカミュとデジェルが冷静かつ几帳面にオーロラの色彩比べをしている。夫唱婦随だか男女雇用機会均等法だかは知らないが、ともかくWペアは今日も仲が良い。
「俺はカミュ専用のハンターだ。」
「獲物を狙うのなら蠍座の18番だな。」
二人のスコーピオンの技の精度はきわめて高い。人間の神経の細さを遠くから、しかも互いに光速で動く戦闘中に100%の確率でキメテしまうのだから。

「カタケオって、やっぱり難しいかな?」
壁のボードにアンタレスでカミュの頭文字の最後の点をビシッと決めたミロが緊張を解いた。
「俺も教えてやりたいのは山々なんだが、ほとんど命と引き換えだからな。体調がすっかり戻ったら検討してみる。」
カルディアからミロに口伝で伝えられればいいのだが、ものがものだけに難しい。
「で、前の聖戦でラダマンティスとやりあったんだって?」
カミュがゼーロスに足蹴にされたトラウマは大きい。そしてそれを黙認したラダマンティスへの怒りは今も胸の奥にくすぶっていた。そのラダマンティスとカルディアが闘っていたことにミロはいたく関心を寄せている。
「おう!ここで俺はあのカモ眉にバーン!とやってやったあとに右からスカニーをダーンッ!って喰らわして…!」
「うん!この左から身体をババッとしてから、カタケオをズガァンってぶっ刺してやりゃいいんだよな!」
身振り手振りで殺陣を演じてみせるこの二人なら、オノマトペ満載な説明でもツーカーだ。
一つ一つの技を論理的に確認しているW水瓶座には無理な芸当だろう。

「それで、マントのここの所を肘でピピッって動かしながら振り向くと、バサァッて良い音が鳴りながら恰好良くマントが捌けるんだぜ!やってみろよ。」
  バサァッ!
よい音を立ててミロのマントが翻る。これがカルディアの感性にピッと来た。
「マジで恰好良いな! ミロ、もう一回してみてくれよ!」
「よっしゃあ!」
  バサァッ!
「次はカルディアもやってみろよ。」
「では……俺、参上!!」
  バサバサァッ
「俺も参上!」
  バサァッ!
ミロとカルディアが顔を見合わせてにやりと笑い、恰好良いマント使い講習会は続く。
その天蠍宮をコッソリ覗く人影があった。小さな貴鬼を連れたアルデバランが通りかかったのだ。
「ふむ………ミロは俺にも教えてくれんだろうかな?」
「カッコイイよね〜、オイラもやりたい!」
羨望と憧れの視線にWさそり座は気付いたのかもしれなかった。


 
     「華麗なる マント バサァッ 講習会」
        ◆参加者 絶賛募集中◆

   場所   :  天蠍宮
   時     :  毎日 午後3時より
   講師   :  ミロ  カルディア (講師の指名は不可)
  持ち物    :   黄金聖衣とマント
  募集人数 :  各回 2名
       希望者多数の場合は抽選で受講者を決定します
       講習費は徴収しません



各宮に配られた個別配布の回覧板の一番後ろにはさまれていた一枚の紙が十二宮に波乱を巻き起こした。

「ほう!新生聖衣をデザインする際にはマントの取り付け位置に気を使うのです。この講習会は役に立ちそうですね」
にっこりしたムウがさっそく聖衣を身につけると天蠍宮に向かった。

「なんだ?こりゃぁ………マントバサァッ講習会?いったい誰が参加するってんだ? 二人揃って蠍座は変なことを考えて…」
回覧板に眼をやり呟きかけたデスマスクの眼前を一陣の旋風が吹き抜けた。
「アルデバランのおじちゃん!牛のおじちゃん、大変だ!マントバサァッ講習会だって!」
「なんとっ!本当か、貴鬼!先週、先々週とミロに声をかけた甲斐があったな!2名か……急ぐぞ、貴鬼!!」
「はいっ!」

「ふんふんふ〜ん♪なにかないか?………ん?」
双児宮の冷蔵庫を開けようとしたカノンはマグネットで扉にはってある回覧板に気がついた。早起きのサガがいつものように貼っておいたのだろう。
「回覧板ねぇ……聖域って、変なところで生活感あるよなぁ。」
何気なく、めくった最後の一枚の紙。
「マントバサァッ講習会?まぁ、退屈しのぎに行ってみるかな。そのあとミロたちを誘って飲みに行ってもいいし。そういえば俺、マントあったっけ?………ああ、サガがクリーニングに出してからクローゼットにしまっておいたって言ってたな。」
サガが、「先に天蠍宮に行っているぞ。」 とカノンに声かけしてから出かけていったのはこれに違いない。退屈しのぎにカノンも天蠍宮に向かった。

「なにいっっ!」
獅子宮の奥でアイオリアが唸った!
「マントバサァッ講習会とはっ! 参加せずにはおくものか! 兄さん、見ててくれ!このアイオリア、きっとあなたが誇れるようなマント捌きを身につけてみせる!」
決然と立ち上がったアイオリアが天蠍宮に向かって駆け出した。

「ふうむ…」
処女宮の奥で瞑想していたシャカが薄目を開けた。なにもない空中から例のマントバサァッ講習会のチラシが舞い落ちてきたのだ。
「このチラシがチケット代わりだ。」
シャカがゆらりと立ち上がった。

「ほほぅ、若い者は面白いことを考えるものじゃな。わしも五老峰に長くいすぎたわい。たまには今風の流行りを覚えてみようかのぅ。」
小宇宙を高めて18歳の姿になった童虎が石段を三段跳びで駆け上がっていった。

回覧板は摩羯宮にもやってきた。
「マントバサァッ、だと?こんなことを考えるやつの気がしれんな。まさかミロのやつ、内面の充実を忘れて外見を取り繕おうというのではあるまいな?技の切れ味を思い出させてくれようか。」
黄金の右腕をさすったシュラがニヤリと笑った。

「フッ、やっと私の出番のようだ。」
回覧板を見るなり輝かんばかりの笑みを浮かべるとアフロディーテはルンルンとハミングしながら鏡の前で身支度を整えた。
「技や内面も大事だが、黄金聖闘士らしい美しい所作と身嗜みは当たり前というものだからな。ミロもなかなか目の付け所が良い。」
薔薇の香りをフワリと身に纏いアフロディーテが天蠍宮に向かった。

「ふぅん………蠍座め、なかなか面白いことを企てるではないか。」
教皇宮内の黄金聖闘士執務室にふらりと立ち寄ったシオンはフフンと鼻で笑い眼を細めると、ピンと紙を指で弾いて教皇宮をコッソリと抜け出した。サガが眼を光らせている可能性があるのでいつものように穏身の術を使う。
「サガの奴め、わしが抜け出したのに気付かぬとはまだまだ甘いの。いくらなんでもこのシオンがマントバサァッ講習会などというトレンディなものに参加するとは思うまいて。」
若く美しい18才の美貌に悪戯な笑みを浮かべると、シオンはローブの裾を軽快にひるがえして階段を下るのだった。

この騒ぎは瞬く間に聖域に広がった。雑兵の溜まり場ではどこから手に入れたのか、あの回覧板の文書のコピーが回覧されていた。
「おい、聞いたか!十二宮でミロ様とカルディア様のマントバサァッ講習会があるそうだ!」
「くそっ!俺達にもマントがあればなぁ!」
「せめて見るだけでも見たい!」
「見るなんて言ったら目がつぶれるんじゃないのか?拝ませていただきたい!」
教皇庁では神官たちがマントのないおのれの法服を嘆き、女官たちは寄るとさわると黄金のマントのさばき方は誰が一番素敵だと思うかについて議論を始めている始末だ。


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        マントバサァッ、好きですね〜。
          でもでも、私的には、
          氷河をフリージングコフィンに閉じ込めたカミュ様が、その横を通り過ぎてゆくときに、
          マントの左裾がコフィンの角に当たってちょっと翻る。
          あのシーンが好きです、作画監督のこだわりがじいんと胸に沁みます。

          「あれか?あれもかなり練習した。」
          「うそだっ!」