「なかなかいい離れではないか。」
「ああ、それはそうだが、俺はやっとお前と二人きりになれたことを寿ぎたいね♪」

道後温泉の宿で結構な夕食を摂ったあと、別に取ってあった離れに老師を送り、ミロとカミュは自分たちの離れに戻ってきたのだ。
「あ……」
寝具を敷き延べてある十畳間に入った途端、 ミロに後ろからいだかれたカミュが息を呑んだ。
「ミロ………今夜は…」
「大丈夫だよ……控えめにするから………外には気配は洩らさない……安心して…」
身八つ口からすっと差し入れられた右手にのがれようとする動きを封じられたカミュが思わず背をそらせば、のけぞった頭がミロの肩に預けられる形となりあっという間もなく唇が重ねられた。 言葉も出せぬカミュの羞恥を左手が煽り始めると湯上りの火照りの残る身体が小刻みに震え出すのがミロにはたまらぬのだ。 柔らかい灯りに照らされた褥に横たえるにはまだ早すぎる。

   ああ…………ミロ……いや…………もう立っていられぬ…

しかし、力の入らない身体を預けるしかないカミュを楽しんでいるミロには、このいとおしい時間を手放す気など毛頭ありはしないのだ。
「まだだ、カミュ………もう少し待って…」
「でも……」
弱々しい哀訴には耳も貸さずに今度はふっくらとした耳朶に甘い刺激を与えてやると、紅い唇から洩れてくるのは喜悦の声としか思われぬ。
「あ………いや……」
それと気付いて乱れ染めた自らを律しようにももう後戻りなどできはせぬ。 気がつけばミロの右手はいつの間にか秘めやかに蕾に触れており否応なしに惑乱の度は増してくる。 しっとりと汗ばんだ肌は早くも薄紅に染められ、耳元で聞こえるミロの浅い息遣いが抑えきれぬ熱い想いを伝えてくるのだ。

   ミロ………もう…だめ…………せめて……お願いだから………ああ……

今にも倒れそうな我が身を支えようとして、ひたと身体を押し付けてくるミロに後ろ手を回してかろうじて手を添わせれば、それがまたミロをいっそう歓ばせるのだが、そんなことに気付く余裕があるはずもなく、カミュも己の想いに流されてゆくのだ。 嫋々とした細腰を締めていたはずの帯もいつしか足元に滑り落ち、しどけなく着崩れた浴衣が申し訳程度に素肌を覆う。 仄かな灯りに慣れたミロの目には、半ば露わにされた身体の艶めかしさがどうにもたまらぬのだろう。
ついに感 極まって自らのすべてをミロの手にゆだねようとした瞬間、向きを変えさせられあっというまに抱き上げられるとそのまま褥に運ばれた。
そっと横たえられたカミュが先の予感に恥じらって顔をそむけているうちに紅潮した頬からまろやかな肩へと唇が滑り落ち、ついにこらえきれずに洩らされた甘い吐息が黄金の髪を震わせた。
「心ゆくまで愛したい………今夜は朝まで寝かさない…」
有無を言わせぬ笑顔に引き込まれたカミュの伸ばした両手がしなやかにミロの身体を引き寄せる。
「私こそ………お前を寝かせはしない…」
求め合う想いがそっと重ねられていった。