◆ 紫龍が離れを訪ねたら 
 
二人が離れでくつろいでいると電話が鳴った。 
受話器を取ったカミュが話を聞きながら頷き、ミロを振り返る。 
「紫龍がたずねてきたそうだが、ここに案内してもらってよいか?」 
「紫龍? たしか、青銅だったな。 ああ、俺はかまわないぜ。」 
玄米茶を飲みながらギリシャの新聞に目を通していたミロは、北海道銘菓 「 白い恋人 」に手を伸ばした。 
 
   「 白い恋人 」 か……まったくいいネーミングだ、俺とカミュのこととしか思えんな♪ 
 
「失礼します。ミロ様カミュ様、お客様をお連れいたしました。」 
玄関で美穂の声がして、やがて案内されてきたのは紫龍である。 
「お寛ぎのところお邪魔いたします。 ドラゴン紫龍です、いつぞやはたいへん失礼をいたしました。」 
座布団をよけてぴたっと正座した紫龍が深く頭を下げる。 
「互いにアテナのために闘ったのだ。 あらたまって詫びを言われるほどのことでもないが。」 
「ああ、気にすることはない。 ああでもしなけりゃ、アテナエクスクラメーションで千日戦争になりかねなかったからな。 いや、そうじゃないな、カミュたちの命が夜明けまでだったことを考えると、両者の力が拮抗したままで夜明けを迎えただろうから、そこでカミュたちは力尽きたことになる。  冗談じゃないぜ、それじゃなんにもならん! 結果としては、お前が俺たちに加勢したおかげでアテナが勝利したと言えるのだ。」 
 
   それにしても、 カミュにアテナエクスクラメーションを食らわせたことを考えると、胃が痛むぜ! 
   紫龍がいなかったら、すぐに抱きしめて過去の過ちを清算するところなんだがな…… 
   まあいい、今夜だ、今夜♪ 
 
その間に新しく茶を淹れた美穂がお辞儀をして出ていった。 
「それで、今日は私たちになにか?」 
萩焼の湯飲みを手に取りながらカミュが問う。 
「はい、先日、老師のところへお伺いしたところ、こちらで碁を打てると教えていただきましたので、一手ご指南いただきたく参りました。お休みのところまことに恐縮ですが、お時間を割いていただけましたら嬉しいのですが。」 
「ほぅ、囲碁を。 私とてまだ初心者だが、それでよければ相手になろう。」 
「ふうん、老師の次は紫龍か。 それにしても、囲碁をやる奴は、みんな礼儀正しいんだな! 今度、星矢にも教えてやったほうがいいんじゃないのか?」 
「え? 星矢がなにか?」 
「いや、たいしたことではない。 ここにも碁盤はあるゆえ、わざわざ娯楽室に行くには及ぶまい。 では、一局打とう。」 
「どれ、俺が碁盤を出してやろうか。」 
「あ、それはわたくしが…!」 
「なあに、かまわんさ、ほかにすることもない。」 
気軽に言うと、さっと立って行ったミロが床の間の脇に置いてあった碁盤を持ってきた。 
この碁盤は本カヤで厚さが30センチはあろうかという品である。 
「ほう、これはよいお品ですな。」 
「うむ、老師もそう言っておられた。」 
「それじゃぁ、俺は露天風呂に行ってくる。まあ、ゆっくりやってくれ。」 
 
    やっぱり、人間、礼儀作法が大事だな…… 
    よほど老師の仕込みが良かったんだろう 
 
さっそく石を握った二人に声をかけて、タオルを持ったミロが出て行った。 
パチンパチンと石を置く音が響く静かな午後である。
 




             紫龍は五人の中でも一番お兄さん的な落ち着いた人です。
               老師の訓育がよかったので礼儀作法も精神修養もできていそう。
               すると、こうなります、間違ってないと思うんですが、いかがなものでしょう。