「 食は中国にあり 」
あさぎ & インファ 共作
中国は広い。 広州では、素揚げした春雨の上にフライした蠍を円形に並べたスタミナ料理があるという。
蠍を食べるとは、中国恐るべし!
ついうっかりテレビで見てしまったカルディアはぞっとした。
「おい、童虎!お前んとこにはとんでもない郷土料理があるんだってな!」
「ふむ、それは何のことじゃろうか?」
聞き返されたが、カルディアは蠍のフライの話など口が裂けても言いたくはなくて、少し間が空いた。あとから思えばそれがいけなかったようだ。
「西洋人の感覚で予想外というと……ああ!熊の掌のことかの?………え?そうではない?では、仔豚の丸焼きの皮を剥いで食べるあれか?実に美味いぞ。………え?これも違うのか。ああ、そうだ!燕の巣があった!あれは珍味じゃ。海岸の崖に巣を掛けるイワツバメの巣は極めて高価で、燕の巣のスープといえば王侯貴族でなければとても食べられないほどの……違うのか?ははぁ、ラクダのコブじゃな!あれは珍しかろう。なに難しいことはない。普通に炒め物にしてもよいぞ。………なに?まだ違うのか?では蚕のサナギか?から揚げにしてぱらっと塩を振って食べるとクリーミィで………大丈夫か?心臓が具合が悪いのか?無理はせんほうがいい、またデジェルが心配するぞ。あとは………ああ、蜂の子じゃな。つまり蜂のサナギじゃ、しかしこれは食材というよりは漢方薬の範疇じゃな。古来より不老長寿の秘薬といわれておってなぁ、わしなどえらく迷惑したものじゃよ。なにしろ、たいそうな長生きをしている仙人がいると麓で噂がたって、それが都にまで聞こえたものだから時の帝が車馬を連ねてはるばる北京からやって来るという騒ぎになってのう。仕方がないから結界を張ったら、それがまた仙人の証拠だと大騒ぎじゃった。わしの長生きは蜂のサナギのせいではなくて、アテナに施されたメソペタメノスのおかげなんじゃが、それを言うわけにもいかんしのう。そのほかには…」
しかし、これ以上聞かされては本気で心臓に悪いと思ったカルディアは蠍のフライのことだと苦々しい口調で告げた。
「ああ! それは花蠍という料理じゃな。 ちょっと苦くて固いが、身体には良いぞ。食べているうちに足が歯茎に刺さるのがちょっと厄介かもしれん。」
「ぎゃっ!」
まさか童虎が蠍料理を食べた事があるとは思っていなかったカルディアが一歩引いた。
「今でも北京の屋台では小さめの蠍を何匹も串に刺してから揚げにして売っておる。庶民の食べ物じゃよ。B級グルメの走りかもしれんのう。蠍をB級というのが気にさわるか?アンタレスじゃからA級でもわしはよいと思うが。ほかにも屋台ではいろいろな………あれ?カルディア?カルディア〜?!」
天蠍宮のリビングでミロがアイスクリームを食べながらテレビを鑑賞し、デジェルがカミュと今月号のナショナル
ジオ グラフィックについて熱く討論を交わしているときにヨロヨロとカルディアが入ってきた。 心なしか顔色も青く見える。
「カルディア! どうしたっ?」
慌てて駆け寄るデジェルの腕にすがるようにして座り込んだカルディアに、ミロとカミュも顔色をかえる。
「おい、カルディア!いったいどうした!」
「もしや心臓か?!早くムウを!」
「いや、そうじゃなくて…………きも、気持ちわりぃ…………熊に…鳥の巣に…虫だって………童虎って……マジであんなもの喰うのかよ?」
聞いたデジェル、ミロ、カミュの三人も真っ青になった!
カルディアにブランデーを飲ませて落ち着かせてから詳しく話を聞いてみた。
「熊は、鹿やトナカイの延長だと思えばわからないでもないが、なんで手のひら限定なんだ?」
「燕の巣って、泥や土でできているのでは? なぜそんなものを食べるのだ? しかも高価って?」
「さそりを入れた酒があることは知っている。しかしなぜ食べるっ??」
疑問は尽きない。
中国人は机と椅子以外の四本足のものはすべて食べると言われて久しいが、飛行機以外の空を飛ぶものと潜水艦以外の海にもぐるものもすべて食べるという説もある。
「それだから童虎は長生きできたとか?」
「なにしろ中国四千年の歴史だからな。」
「やはり只者ではないということだ。」
その後、童虎を見る四人の目には一味違った畏敬の念が込められたということだ。