「 モーツァルトの誕生日 」
「今日1月27日はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756〜1791 ) の誕生日だ。」
「モーツァルトなら知ってるぜ! アイネ・クライネ・ナハトムジークとかフィガロの結婚とかキラキラ星変奏曲とか有名だ。」
「彼はハイドン、ベートーベンと並ぶ古典派三巨匠の一人で天才の名をほしいままにしたが残念なことに35歳の若さで病死した。 それでも作曲した楽曲は700曲以上に及び、今に至るまで多くの人に愛されている。」
「6歳のときにオーストリアのシェーンブルン宮殿で当時7歳のマリー・アントワネットに求婚したっていうエピソードがすごいな! さすがは大物だ!」
「ともかくエピソードが多い。 音楽に関しては天才的だが、それ以外にも人目を引くものが数多くある。
『 アマデウス 』 という映画では…」
「あ〜〜っ、そいつは覚えてる! けたたましい声で笑って女を追い掛け回して品の無いことを言ってたんで唖然とした! あの映画だろう!」
「そこだけを覚えていられては身も蓋もないが。」
「他にも覚えてるぜ。 どこかで飲んで騒いでみんなにかつがれて仰向けになったままピアノを見事に弾いて見せた。 あれには驚いたね! 実際にそうだったかどうかはわからんが、そのくらいのことは平気でやりかねなかったんだろうな、とは思う。
ええと、それから、なんとかいうやたら難しい曲をいっぺん聴いただけで覚えてしまったっていう話がなかったか?」
「それはローマのシスティネ教会の秘曲中の秘曲と言われたミゼレーレのことだ。
一度聴いただけで正確に楽譜に移し変えたというのだから並大抵の能力ではない。 モーツァルトが14歳の時のことだ。」
「天才だよ、天才! 35の若さで死んだのは実に惜しい! サリエリが毒殺したっていうのは本当か?」
「いや、風説に過ぎないだろう。 あの映画はフィクションゆえ、そこまで信じるのはいかがなものか。」
「思うんだけどさ、」
「え?」
「俺がモーツァルトでお前がサリエリ。」
「えっ?!」
「性格だよ。 お前は生真面目できちんとした生活態度を崩さない。 仮に曲を作るとすれば形式を重視して大胆な冒険なんかしない手堅い曲を作ると思う。」
「うむ、それは確かに。」
「でも俺は冒険をしてみたい。新しいものに挑戦したいし賑やかなことが好きだ。友達と飲んで騒いでその最中に作曲だってするだろうな。
そういうのが好きなんだよ。」
「で、私がお前のたぐい稀なる才能を見抜き嫉妬するとでも? 確かサリエリの悲劇は、自分が作る曲は凡庸なのにモーツァルトの天賦の才能を見抜く確かな目を持っていたという点にあるのではなかったか?
そのためにサリエリは苦悩し、ついにモーツァルトを毒殺することになるのだ。」
「あの映画ではそうだったけど、むろん俺はお前に殺されたりはしない。 そういうのもある意味では究極の愛かもしれんが、お前が静、俺が動。
お互いに自分にはないものを持っている相手に惹かれて結びつくんだよ♪」
「あっ………ミロ!」
「ねぇ………モーツァルト効果って知ってる?」
「ああ………ミロ…」
「モーツァルトを聴くと脳が活性化したりストレスが抑えられたりしてよい効果をもたらすっていう説がある。
農作物に聴かせれば収量が上がり、乳牛に聴かせれば乳の出がよくなるっていうぜ。 ………ほんとかな?」
「そんなことは私は………」
「で、俺たちの場合どうなるか試してみようと思う。」
「………え?」
そしてミロはモーツァルトのキラキラ星変奏曲をかけてみた。 どう見ても夜のためにあるとしか思えない題名である。
「ミロ………せっかくだがあまり向かぬと思うのだが。」
「う〜ん、おかしいな? こんな筈じゃないんだが?」
「たしかに活性化するが、知的もしくは芸術的創作活動に意欲が湧くような気がする。 およそムーディーではなかろうと思う。」
「うん、俺もこのBGMでお前を抱こうとは思わない。 モーツァルトじゃだめなのかな?」
「私の思うにドビュッシーの方がいいような気が………」
「……え? そうかな?」
「専門的なことはよくわからないが、なんとなくそんな気が…」
「ふうん………」
そこでミロはドビュッシーの亜麻色の髪の乙女というのをかけてみた。 題名に惹かれるものがあったのである。
「ふ〜ん………これってかなりいいかも♪」
「ん……」
こうしてドビュッシーが公認された。
「ちょっと待て! これではモーツァルトの立場がない!」
「ああ、それなら大丈夫! 教皇の執務室のBGMに向いてるからってアイオロスとサガにCDを届けておいた。
きっと能率が上がってるぜ♪」
「それならよかろう。」
※ キラキラ星変奏曲、亜麻色の髪の乙女は こちら の名曲スケッチからどうぞ♪