「 ドラえもんの誕生日 」


「9月3日はドラえもんの誕生日だ。」
「ドラえもんって、あのドラえもんか??」
「うむ、西暦2112年9月3日に製作されたロボットという設定だ。」
「離れのテレビで何度か見たが、あのどこでもドアとかタケコプターとか、実にユニークだな♪」
「実現するとはとても思えないが、その豊かな発想には敬服する。 テレポートできる私たちはどこでもドアを必用としないが、一般人には有意義だろう。」
「いや、きわめて迷惑だ!」
「え?」
「だって考えてもみろよ。 あんなものが実用化されてたら、宝瓶宮や天蠍宮にある日突然どこでもドアが出現して見知らぬ他人が顔を出すんだぜ! そんなことがあったら、お前、どうする?」
「……えっ?」
「俺の理解するところでは、どこでもドアは空間を歪曲化して距離に関係なく任意の二点間を隣接させるアイテムだ。 空間が直接つながっているので、聖域の結界も役に立たなければ、俺がお前との逢瀬に必ず施している小宇宙ガードも無益になるとしか思えない。 ということは、俺がお前を抱いている最中にいきなり他人が顔を出す可能性があるということだ!」
「えっ!! し…しかし、いったい誰がなぜ、そんなことをせねばならぬのだ?」
「決まってる! 俺とお前のファンだ!」
「えっ?」
「今さら驚くなよ、それがファン心理ってやつだ。 でも当然だが、俺は御免だね。 だから、どこでもドアは実現しない! してもらっては俺たちが困る!」
「ずいぶんと手前勝手な理屈だが。」
「いいんだよ、誰しもおのれがいちばん可愛いからな。 いや、俺の場合はお前のことも十二分に可愛がってるが♪」
「そ………そんなことをここで言わなくても……どこでもドアのことはよくわかったから、ほかのアイテムについてはどうなのだ?」
「そうだな………例えば、とりかえロープっていうのがある。」
「とりかえロープ? それはどのようなものだ?」
「ロープの両端を二人が持つと、姿かたちはそのままで中身が入れ替わるんだよ。 つまり、簡単に他人になれるってわけだ。」
「有り得ない。」
「そうあっさりと片付けるなよ、こいつは面白いぜ!」
「そうなのか?」
「俺とお前がロープを持つと、俺の姿はアクエリアスのカミュになり、お前はスコーピオンのミロになる。」
「うむ。」
「で、俺がお前を抱く。」
「………え?……えーっ!」
「詳述は避けるが、つまり自分自身と向かい合っている気分になるはずだ。 想像するだけでどきどきするな♪究極のナルシズムってやつかもしれん! こいつは滅多にできない体験だぜ!」
「滅多にできないのではなくて、絶対にできない、の間違いだろう。 それに倒錯しすぎていて、とても推奨できない。 ………つまり、お前は取替えロープなら、実在していてもいいと考えているということか?」
「うん、そういうこと♪」
「あっさりと肯定してくれるが、ほかの使い方もあるがかまわぬのか?」
「ほかのどんな?」
「あらかじめ眠り薬を服用した第三者が、自分が眠り込む寸前にお前をうまく言いくるめてロープの端を握らせて身体を交換する。」
「…え?」
「それから外見も声もお前と同じ誰かが宝瓶宮に来て私を抱く。 この可能性は考えないのか?」
「…なっ、なにぃ〜〜〜っ!!」
「お前でなければ私は拒絶して未遂に終わるだろうが、なにしろどこから見てもお前なのだからな。 声も汗も、髪の匂い、肌の色、小宇宙の感触までもが本当のお前なのだ、ただ一つ、心を除いては。 多少いつもと言動が違っていても、私は疑うことなく、お前の姿を借りた誰かに抱かれることになるだろう。 薬の効果で眠り込んでいるお前が乗り込んでくることもないので、犯行は安全に遂行される。 それでよいのか?」
「よ、よ、よくないっっ!!冗談ではないっ!!そんなことがあってたまるかっ! お、お前、いったい誰を想定してるっ?! この俺にそんなことをできるほど親しい関係で、俺とお前の仲を知っていて、なおかつお前を抱いてみたいと思うやつというと……! おいっ、誰のことだっ?!まさか、あの…!」
「妙な勘ぐりはやめてもらおう! 私は単に可能性について言及しただけだ。 なにゆえ、私たちがドラえもんのとりかえロープで口論せねばならぬのだ?」
「あ………そうだな……すまん…… しかしなぁ…」
「ところで、なぜこの壁紙を?」
「さすがにドラえもんの壁紙はなかったが、代わりにこれを見つけた。 顔も似た感じだし、問題なかろう?」
「しかし、これは犬張子だが。 ドラえもんはネコ型ロボットだ。」
「え?」
「犬張子は日本に昔から伝わる玩具で、犬の出産は安産だという観念から、安産と赤子の健全な成長を祈念するという趣旨のものだと理解している。」
「あ………そう…………俺たちにはよっぽど向いてないんだな、ドラえもんは。」
「夢をかなえるはずの秘密道具だが、私たちには無益と云ってもいいかもしれぬ。」
[いや、待てよ!」
「え?」
「ふえるミラーでもう一人の俺を作る! ミラーに映ったものは左右逆になるが、左利きの俺でも別に問題はない。」
「ミロが二人………で、どうするのだ?」
「決まっているだろう♪ 二人の俺でお前を抱く♪」
「……えっっ!」
「取替えロープと違ってどちらも本物の俺だし、誰にも迷惑はかからない。 いつも以上に丹念に可愛がってやるぜ、期待してくれていいからな♪」
「あのぅ………私としては………」
「なに?なにか不満でもある??」
「ええと………」
「いいから、いいから♪」




              
………あ〜あ、いいのかしら、こんな展開で。
              でも、ミロ様の考えるとおりに書いていったらこんな結論に。
              カミュ様、「ええと………」って、なにを考えました?


           「決まっているだろう? ミロAが熱いキスをしているときにミロBはカミュにそっと手を添えて……♪」
              「ばかものっ!」
              「あっ、カミュ、カミュ〜〜っ!」