「 土方歳三の誕生日 」
「今日5月31日は土方歳三 ( 1835〜1869 ) の誕生日だ。」
「え?誰?」
「倒幕を目指す勤皇派に対抗して京都の治安維持に当たるために徳川幕府によって創られた新撰組で鬼の副長と恐れられた人物だ。ちなみに局長は近藤勇。」
「…え?」
「つまり………江戸時代末期の動乱期に活躍した男だ。」
「最初からそう言ってくれたら、俺も理解が早いんだがな。」
「そして、特筆すべきは、今に至るまでその足跡を慕うファンが後を絶たないことだ。
京都から転戦に転戦を重ねてついに函館に至り、戦いのさなかに敵の銃弾に倒れた終焉の地には毎日たくさんのファンが日本中から訪れ、その死を悼む香華の煙が絶えることはなく、その場所においてある寄せ書きノートにはファンの熱い想いが綿々と綴られている。」
「え?
土方って140年位前に死んだんだろう?
どうして今でもそんなにファンが?」
「そこのところは私にもよくわからぬが、おそらく情勢が徳川幕府にどんどん不利になっていくという時代に迎合せず武士としての義を貫き、ついに京都から北海道の地に転戦してまで幕府のために闘ったという筋の通った生き方が愛されているのではないだろうか。
徳川恩顧の武士が次々と倒幕側に懐柔されていく中で、もとは農民だった土方がかえって武士よりも武士らしい死に場所を得たのだ。」
「ふうん………」
「土方のほかに同じ新撰組の沖田総司にも熱狂的ファンがいることがよく知られている。」
「なにか特別な理由があるのか?」
「沖田は腕達者揃いの新撰組の中でも飛びぬけて剣の腕がたち、敵を斬殺することも多かった。
かと思えば宿舎の近くの子供達と楽しく遊んでやっていたとの証言もある。
そして沖田は有名な池田屋襲撃事件の最中に喀血してその場を引いた、との説があり、その後、幾つかの戦闘を経て肺結核が重篤になり、ついに27歳の若さで世を去っている。」
「それだな!」
「え?」
「腕が立って、しかし病がちで、若くして死んだ。 これは絶対に女心をくすぐるシチュエーションだ!!」
「…そうなのか?」
「そうに決まってる!お前だって二十歳の若さで宝瓶宮戦で命を落としたからますます絶大な人気を博したんだよ、知らないのか?」
「そ、そんなことは私は…」
「で、沖田も当然美形だったんだろう?」
「数々の小説などではそのような記述が多いが、残された記録によると必ずしもそうではなかったようだ。」
「いいんだよ、そんなことは。
本人の写真が残ってないんだろう?
それなら美醜は見るものの主観によって左右されるんだから。」
「確かに、美しいと美しくないとの境界線を引くことは不可能だ。美醜は数値化できない。」
「ただし、」
「え?」
「それはごく普通の人間にいえる話で、お前の場合は別だ!」
「…え?」
「お前こそは比類なき美しさでこの世に君臨する人類の至宝、銀河の奇跡の存在だ!
思うが、もし宝瓶宮を終焉の地とするお前の記念碑があったら、世界中、とくに日本から大挙してファンが押しかけて花やら
菓子やら同人誌やら大変な数の捧げ物がたった一日でホールを埋め尽くすに違いない!」
「…なにっ?」
「だってそうだろう?土方も沖田も140年前に死んでさえそんな状況なんだぜ。
それに比べてお前の死は、いや、すまん、確かに生きているけどさ…つい最近の話だし、今も新しい挿話が出来上がり語り継がれている。ああっ、さぞかしいろいろな同人誌が集まることだろうな!楽しみだっ♪」
「ミロ………その感慨は、土方どころか沖田からも遠く離れているのではないのか…?」
「あ………」